「本当に私も参加できるの?」…“標準治療”を選んだ膵臓がん患者の心が揺れた民間療法ではない“第3の選択肢”
浮上した新たな選択肢
厚生労働省は、新しい薬が生まれるまでには、まず試験管内での実験や動物実験などを行い、病気への効果が期待でき、人に使用しても安全だと予測されるものを「くすりの候補」として選ぶと説明している。そして、その候補について、実際に人に使用して効果と安全性を調べ、国の承認を得るためのデータを集める臨床試験を「治験」と呼んでいる(※厚生労働省ホームページ「治験について(一般の方へ)」を参照)。
つまり、いきなり正体のわからない薬を人に投与するわけではなく、人に使用する段階に至るまでには、さまざまな研究や試験が行われている。そして、参加する人の安全や人権を守るための細かなルールが設けられ、治験を実施する病院も省令に則った要件を満たすよう定められているのだ。
それでも、まだ国から薬として承認される前の段階であることには変わりがない。
加えて、私は生粋の薬嫌いだ。
国から承認され、保険診療の対象になっている化学療法ですら、積極的に受けたいと思っていたわけではない。「他に方法がないから、仕方なくやる」くらいの気持ちだった。それなのに、未承認の薬を使い、言葉は悪いが実験台になることは自分からは出てこない発想だった。
だから友人から「治験」という言葉を聞いたときも、すぐに「それならやってみよう」と思ったわけではない。ただ、その言葉が妙に頭の片隅に残った。
治験――。
それまで私の中では、「化学療法を受ける」か「化学療法を受けない」か、その二つしか選択肢がないように思えていた。そこに突然、第三の選択肢が浮かび上がった。
もちろん、その選択肢が本当に選べるものなのかどうかさえわからない。また、私のような患者を対象とした治験が存在するのか。存在したとして、どこで行われているのか。どうすれば参加できるのか。自分がその対象になるためには、どのような条件を満たす必要があるのか。そもそもその治療法はどんなものなのか。
闘病と治療のなまなましい現実
なにはともあれインターネットで検索したのだが、これがなかなか難しかった。
治験に関する情報を検索できる公的なサイトは存在する。しかし、そこに掲載されている情報は、もともと患者一人ひとりに「あなたにはこの治験が向いています」と教えるために作られたものではない。医学用語も多い。それを一つひとつ読み解き、自分がその対象になり得るのかどうかを判断することは、素人にはかなり難しかった。
治験について描いた映像作品も少ないながら存在する。
エマ・トンプソンが主演のテレビドラマ「Wit」は化学療法の副作用の厳しさを正面から描いた作品だ。余命幾許もないがん患者が主人公の作品の多くが「残された時間をいかに生きるか」を描くなか、闘病と治療というなまなましい現実を映像化した稀有な作品と言える。
エンターテイメントを目指した作品ではないが、ベルリン国際映画祭やエミー賞をはじめ、世界的に権威のある賞を多数受賞している。
※以下、作品の内容に触れるためネタバレを含む。また、作品についての解釈は、あくまで私個人の見解であることをあらかじめお断りしておく。
主人公の大学教授、ヴィヴィアンは末期の卵巣がんと診断され、実験的な治療を受けることになる。一定の効果はあるが、厳しい副作用にヴィヴィアンはどんどんやつれていく。がん闘病のシビアな側面とそれに立ち向かうヴィヴィアンの心理状態が丁寧に描かれている。
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