「犬と暮らすと認知症リスクが4割減」 シニアのためのペット講座 「飼い主が先に亡くなるケース」への備え方は?
自分に何かあっても……
それは、植松さんが骨折で入院した時に実際に効果を発揮した。フクちゃんは一時的に「とものわ」の猫ホテルに預けられ、その後、所有権はとものわに移った。ここで一度、植松さんはフクちゃんとの暮らしを諦めた。それでも退院後に体調が回復すると、とものわから「預かりボランティア」という形で再び一緒に暮らす提案があった。
所有権がとものわにあるのは変わらず、万が一の時には同会が引き受ける。けれど、植松さんが元気な間は、フクちゃんはこれまで通り植松さんの家で暮らす。飼い主とペットの関係を、「所有しているかどうか」だけで切り分けない柔軟な形である。
この仕組みによって、植松さんの不安は大いに軽くなった。もし自分に何かあっても、この子の行き場はある。そう思えるからこそ、安心してフクちゃんと暮らせているという。ペット後見は、残される動物を守るだけではない。高齢の飼い主が、罪悪感や不安に押しつぶされず、ペットとの生活を続けるための支えにもなるのである。
とものわのペット後見の費用は、体重10キロ未満の犬猫1頭あたり100万円だ(10キロ以上の場合は「体重×10万円」)。
「譲渡先が早く見つかる子もいれば、長期間の飼育や終生飼育となって100万円以上かかる子もいますが、全体で補填し平均化することで、赤字にならずに持続可能な運営を成立させる価格として設定しました。100万円で高いと感じる人もいれば、逆に『それだけで大丈夫ですか?』と心配する人もいます」(奥田氏)
無償での保護などの無理な活動を続ければ、資金や人手が尽きて多頭飼育崩壊などを招く危険性がある。適正な対価は、単に団体を維持するためのものではなく、預かった命を責任を持って守るための条件でもある。
「保護活動において動物が好きだから、かわいそうだからという思いは大切です。しかし、それだけで何十頭もの犬猫を抱え込めば、必ずどこかで限界がきます。食費も医療費もかかりますし、世話をする人の生活もあります。結果として飼育環境が悪化し、保護したはずの動物たちを苦しめてしまうことがあるのです」(同)
虐待に近い飼い方になってしまうケースも
飼い主があらかじめ費用を準備し、契約を結び、将来の引取先を確保しておく仕組みは、たしかに強力な備えである。しかし全ての高齢者がその費用を負担できるわけではない。むしろ深刻な問題が起きやすいのは、一人暮らしで、経済的にも不安定な人たちである。そうした人々を「備えがないから自己責任」と切り捨てれば、人も動物もますます孤立してしまう。
人と動物との関係について研究している横浜国立大学准教授の安野舞子氏は、
「ペットを守る仕組みがなければ、高齢者も適切な支援とつながれなくなります」
と指摘する。
「入院や介護施設への入所が必要になった際、『ペットがいるから』と高齢者が支援を拒む例があります。ですが、心身の衰えや認知症の進行によって適切な世話ができなくなり、結果として虐待に近い飼い方になってしまうこともあるのです」(同)
この問題に対し、安野氏が先進例として挙げるのが、滋賀県甲賀市の「こうが人福祉・動物福祉協働会議」である。2018年に始まったこの会議には、動物愛護管理行政、社会福祉行政、社会福祉協議会、動物愛護団体、動物愛護推進員など、関係するキーパーソンが集まる。月に1度、困難事例を持ち寄り、人と動物の双方をどう支えるかを話し合う。単に動物を引き取るかどうかではなく、飼い主の生活状況、福祉サービスとの接点、地域の見守り、ボランティアの関わり方まで含めて考える仕組みである。
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