「もう話はすんだ。それではさようなら」…誰もが真相を知りたがった「スチュワーデス殺人事件」“疑惑のベルギー人神父”の肉声

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「強大なる宗教の底力を、知らなさすぎた」

「まさか『白か黒か』のオリジナル122分ヴァージョンを観られる日が来るとは、思いませんでした」

 その完全版を観たという、映画ジャーナリスト氏の話。

「スチュワーデスの死体は善福寺川ではなく、日光・中禅寺湖で発見されたことになっています。よって物語全体は、日光周辺で展開します。久保菜穂子が、ヨーロッパ航空のスチュワーデス役で、スタイル抜群。若い修道士が血迷うのも無理ありません。彼女はモンテマリオ修道会の信者で、修道士との痴情のもつれで殺されるという設定です。当時囁かれていた、教団の物資横流しや密輸などの話は、出てきません。あくまで男女のスキャンダル話です。事件を捜査する刑事が笠智衆。刑事をマークして、カトリック教団の閉鎖性や内情を暴こうと奮闘する新聞記者が田宮二郎です」

 ダニエル修道士(ベルメルシュ神父がモデル)を演じたのはベルナール・ヴァーレ。

「それまでは、東宝の『世界大戦争』『宇宙大戦争』など娯楽映画専門のエキストラ的な俳優でした。おそらくこれが、唯一の本格的出演作でしょう。決してうまい芝居ではありませんが、怪しい修道士の雰囲気は、十分出していました」

 相応の力作ではあるが、やはり低予算のうえ、教会や空港などでの撮影が不可能だったため、画面上のスケール感のなさは、いかんともしがたいものがあったという。

「男女のもつれも、展開上、少々もたれています。それでも、取り調べ室で警察に抗議する弁護士(織田政雄)や、ダニエルを出国させる上司の修道士(十朱久雄)など、クセモノ脇役がそろっているので、旧作邦画ファンには見逃せない作品だと思います」

 猪股氏は、こう記している――〈結局この映画を作って思い知らされたことは、カソリックという組織がいかに世界各国の指導層に強い支配力をもっているか、そして日本の上層部もまた例外ではなかったという事実だ。何千年の伝統をもち、地球上の全人口の三分の一にも及ぶ信徒をもつ強大なる宗教の底力を、若いぼくはあまりに知らなさすぎた。〉

 こうして猪股勝人氏の“挑戦”は、志半ばで閉ざされたような形になった。だがその6年後、名匠・熊井啓監督(1930~2007)が、ふたたびこの題材に挑んだ。映画「日本列島」(1965年、日活)である。日活のアイドル女優・芦川いづみが“演技派”に脱皮した名作としても知られている。映画ジャーナリスト氏の話。

「ただしこちらは、〈スチュワーデス殺人事件〉が全体の題材ではありません。この映画は、戦後もなお、ニセドル札事件や下山事件など、GHQやその残滓、在日米軍に翻弄されつづける日本の姿を描く、いわばエピソード集的な構成です。そのなかの一件として、教会にまつわる暗部も描かれています。重要容疑者の神父が急に出国してしまい、その知らせを受けた刑事部長(加藤嘉)が凄絶な表情で机をたたき続けるシーンはすごい迫力で、熊井啓監督の“怒り”が伝わってくる名場面です」

 そのほか、この事件は、松本清張『黒い福音』を原作として、1984年と2014年の2回、TVドラマ化されている。特に2回目のドラマ化では、事件を追う刑事役をビートたけしが演じて話題となった。殺害されるスチュワーデス役は、1回目は片平なぎさ、2回目は木村文乃が演じていた。

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