クマ対策で「農作を3年やめる」? 「猟友会と同じ服を着る」? “人”を学んだクマをどう遠ざけるか 旭山動物園統括園長×『クマ撃ちの女』作者対談
自然と動物を知り尽くした坂東元を「クマ撃ちの女」安島薮太が直撃(前編)
動物が本来持っている能力や行動、感性を引き出す「行動展示」を確立させた、旭山動物園の坂東元さん(統括園長)。漫画『クマ撃ちの女』の作者・安島薮太さんは連載前から旭山動物園を訪れており、坂東さんとも交流を持っていたという。そんな2人が、クマの出没に揺れる日本の現状について語り合った。
【写真を見る】本気で跳んだら溝も越えられる?旭山動物園のヒグマの行動展示 筒で遊ぶ姿も
クマは母親との生活の中で“人”を学ぶ
――安島さん、久しぶりに旭山動物園を訪れていかがでしたか?
安島:来るたびに旭山動物園の行動展示はいいなと思うし、感動があります。動いているヒグマを見るとここは違ったなと、反省モードに入ったりもするんですけど(笑)。坂東さん、どういうことに注意して展示しているのですか?
坂東:どの動物も今生きている環境で必要な能力だけを使います。飼育下では食べることと安全を保証しているので、その動物が本来持っている能力を使う機会がないと言っても過言ではないです。人は鳥を見て自分も飛べないかな、魚を見て潜れないかなと考えるけど、そういう思考回路ではない。言い換えると、環境を少しいじるだけで思わぬことができます。高い木の上に食べ物を用意してみたら、意外と簡単に登ったり。そういった潜在的な能力や感性をどう読み取るかですね。
安島:展示の仕方を変えたり、進化させるというよりは、その動物が持つ本来の行動を見つけていく感じなのですね。
坂東:動物から見た視点を考えることも大事です。動物に興味のある人と木々の植生に興味がある人では、同じ山でも見えている世界が違いますよね。同様にクマとシカが見ている景色もおそらく違うので、その動物がどんなものを見ているのか。こういう環境で生き抜く力があるということは、こういうこともできるだろうと推測する。
安島:見ていてふと思ったのが、ヒグマが本気で跳んだら、お客さんとの間にある溝も越えられるのではないかなと。
坂東:ヒグマは体重が重いし、お客さん側の方が高いので、クマからすると、見た目より2メートルぐらい遠くを跳ぶのと同じ距離感にはなっています。ただ、確実なデータはないのです。ヒグマは何メートル跳躍できるのか、オランウータンは何メートルの高さなら飛び降りられるのか。なので、最終的には接している中での感覚に頼ることになります。
安島:配慮しすぎて遠くから見ても面白味に欠けますし、考えれば考えるほど難しいお仕事だと思います。そんな坂東さんから見て、最近の野生のヒグマはどうですか?
坂東:昔とはだいぶ変わりました。以前はヒグマにとって人の生活圏はアウェーで、コソコソ出てくる感じだったのです。それが2023年頃から、旭山動物園の裏山にも若いヒグマがウロウロするようになって。どうやら長期滞在しているようで、明らかに自分の生活圏にしているなと。今はもう見かけないので、駆除されたようですけど。
安島:坂東さん自身もヒグマの変化を現実のものとして感じているのですね。そもそも、どういう流れで人の生活圏に近づくようになったのでしょう?
坂東:どの生き物にもベースの行動パターンはあるけど、個体により微妙な違いはあるのです。特に群れを作らないクマは個性も豊かで。一応、基本的な行動は母親と一緒にいる間に学ぶのです。母親が人里で盗み食いをすれば子供もまねするし、その子供が母親になれば、またその子供もまねをする。
安島:なるほど。
坂東:ましてや家の中にまで入るクマとなると、おそらく初めてではないだろうと。ガラスなんて見たことがなく、ぶつかって割れたら驚いて逃げるはずです。でも報道映像を見る限り、あまりパニックになっている様子はない。本州のツキノワグマもそうですよね。そうやって人のことを覚えた子供も2、3年で母親になるので、想像以上に早いサイクルなのです。
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