クマ対策で「農作を3年やめる」? 「猟友会と同じ服を着る」? “人”を学んだクマをどう遠ざけるか 旭山動物園統括園長×『クマ撃ちの女』作者対談
大事なのは、食べ物との動機付けを断ち切ること
安島:今のクマ対策は、うまく行っていない印象があります。ある程度、自然と人の均衡を保てていた時代と何が違うのでしょう?
坂東:昔の方が人に勢いがあったのは間違いないと思います。山奥まで重機が入り込み、山道をトラックが行き交ってましたから。そういう場所が緩衝地帯となり、人の生活圏に達していなかったのです。まだ旭川は緩衝地帯が機能している方でしょうね。山との間にある農地で食べ物が手に入るから、市街地まで来る理由がない。
――その分、農家さんが脅威にさらされていると。
坂東:前提として、北海道は農家さんがどんどん減っていて。面積はそこまで減っていないのですが、大規模経営者が増えて、目の届かない農地が増えています。そういう農地にやって来る動物で特に多いのがシカで、ある意味ではクマ以上の問題になっています。農家さんにしてみれば、手塩にかけたものが奪われるのは許せないところがあって。指標として被害額みたいな表現をされるけど、金額の問題より心情的につらいものがある。
安島:防ぐ方法はあるのでしょうか?
坂東:難しいですね。シカは人の行動をよく見ていて、いない時間を見計らって行動しているので。人は基本、日中しか行動しないことがバレているのです。行動範囲も見透かされていて、木々の陰になっている草地に200頭、300頭ぐらいの群れがいたりする。あれを見てしまうと、勝ち目はないかなと思いますよ。
安島:初めて坂東園長にお会いしたとき、人と動物はどちらが賢いかみたいな話になって。「賢いということを生き抜く力だとするならば、山では人の方がはるかに劣る」と言われたのです。実際、山に入って、ハンターさんの獲物を横取りしようとするキツネに出くわしたりすると、確かに動物は山で生き抜く賢さを持っているなと痛感しました。そんな賢さを持ち、腕力や体力で勝るクマを相手にするなら、行政が動くしか手はないのでしょうか?
坂東:自治体によって考え方も違いますからね。通り過ぎるだけなら放っておけばいいというところもあれば、人里近くに出て来たら駆除した方がいいという考えもある。試しに石をぶつけてみようという人がいないとも限らないし。
安島:自分の子供の頃だったら、投げそうです(笑)。
坂東:やりそうですよね、子供はそういうものですから(笑)。ただ、行政は他にも仕事があるし、クマに割けるマンパワーも限られているのです。人口30万の旭川市でも数人単位でしか配置できない。逆に小さな町や山村の方ができることが多いかもしれませんね。自衛のために銃や罠を扱える人の割合が高いし、まだ町内会が機能している地域であれば、みんなでクマが隠れられるような藪を刈り取ろうとかもできる。
安島:ちょっと怖いのが、行政が手をこまねいていると、自分たちでクマ問題を解決しようとする人も出てくるんじゃないかなと。
坂東:今は自分こそ正しいと信じる人が増えてますからね。
安島:でも彼らには知識や知恵が足りないから、やり過ぎてしまうのではないかと。それを防ぐには見識のある方々の考えの下で調整していくしかないけど、そういう方たちにもいろいろな考え方があって、バランスを取るのが難しいのでしょうね。もし坂東さんがクマ問題のリーダーになったとしたら、どんな対策を打ち出しますか?
坂東:極論ですけど、郊外の住宅街や農家さんでも家庭菜園を3年間やめてみようと提案してみたいなと思います。もちろん生ゴミの処理などは徹底して。クマが独り立ちするまでの1サイクルである3年が経過すれば、畑に侵入した経験のあるクマがいなくなり、食べ物との動機付けを断ち切ることができるので。自分の畑だけじゃダメですよ。隣の畑の作物が食われるだけです(笑)。
安島:人里に出てくることの得をなくすんですね。
坂東:人だけですからね、自然にはないようなおいしい食べ物を作るのは。山なんて本来、真夏にはろくな食べ物がないんです。そんなときにおいしいスイカがあることを知ったら、それは来てしまいますよ。
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