クマ対策で「農作を3年やめる」? 「猟友会と同じ服を着る」? “人”を学んだクマをどう遠ざけるか 旭山動物園統括園長×『クマ撃ちの女』作者対談
人里に来るのは、山に食べ物がないからではない
――山間部では過疎化による空き家が増えていることもあり、それもクマの学習に一役買っているのかなと。
坂東:それもあるでしょうね。廃屋に出入りすることでガラスが割れることを経験したり。田舎だと庭に実のなる木、柿や柑橘類があるから食べ物に困りませんし。特に食べ物とひも付いていることは大きいです。人の生活圏にある食べ物の方がおいしいし、栄養分も高い。別にドングリが好物ではなく、仕方なく食べているところもあるのです(笑)。そうやって見つけた食べ物はもうクマにとって自分のもので、近づいて来た者は盗みに来た、排除しようと。
安島:山に食べ物がないから人里に降りて来ている、と主張している人もいますが。
坂東:単に飢えたクマが出て来ているにしては、数が多すぎます。体格のいい個体も目撃されていますし、生活圏自体がシフトしていると考えた方が整合性も取れるかなと。人の関心が高くなって、クマに気づくようになったのもあるでしょうね。
安島:東京の方でも、2025年の夏秋頃からクマ関連のニュースが増えた気がします。
坂東:特にクマの被害が目立つのが東北ですが、10数年前までシカやイノシシでさえほとんど見かけなかったのです。それが2020年頃から急速に動物による農作物の被害が増えて。もっと南に住んでいた動物が急速に東北にまで生息域を北上して来ています。同じ頃にクマを見る機会も増えて、いろいろな動物が住むようになれば、食べ物の競合も起こると。
安島:実際のところ、クマは増えているのでしょうか、減っているのでしょうか?
坂東:結局、本当の数は調べようがないんです。人が立ち入れない山奥に住んでいるクマもいるでしょうし。もしかしたら山奥と人里近くに住むクマに二分されて、意外とその中間のエリアは空洞化しているかもしれない。
安島:結局、確かなことは分からないのですね。
坂東:ただ、例えばヒグマは約1万2000頭いると言われています。それに対し、昨年の駆除数は2000頭を超えている。1万2000頭のうち年間2000頭を駆除していたら絶滅に近いペースのはずですが、いっこうにその気配はない。ということは、思っている以上にいるのかなと。
人の怖さをクマに「学習」させられるのか
安島:クマの学習を逆手に取れば、人間の怖さを覚えさせることもできる気もするのです。『クマ撃ちの女』の16巻でも描かせてもらったのですが、昔はちょっと残酷な殺し方をすることで人の怖さを学ばせていたそうですね。
坂東:多かったのは「くくり罠」や箱罠猟で、胆汁を多く取るために絶食状態にしてすぐには殺さなかったそうです。ワナにかかったクマは苦しむことになり、他のクマもそれを見ることになります。そうすると、動物は人の気配のあるところはリスクがあると学習して、それを覚悟の上で食べ物を狙うかどうかのせめぎ合いになる。食べ物を手に入れるには、仲間の1匹や2匹は命を落とすかもしれないと。そうやって動物との関係性を作っていた。その意味で言うと、今は箱罠にかかってもすぐ処理してしまうので、学習が山に帰っていかないのです。昔は1週間や10日、ヘタしたらもっと長い間放置していて、その間に苦しんでいるクマを見た動物たちが、人の近くは危険だと覚えていたのです。
――そう聞くと、昔の方が良かった気もします。
坂東:だからと言って、中途半端に規制を緩めるのも怖いのですよ。恐怖で身を引いてくれればいいけど、逆に敵対心を育てて、人が来たら排除してやれとなるかもしれない。
安島:『クマ撃ちの女』ではまさにそれを描こうと思っていて。母親がやられたから銃は怖い。ただ、人が弱いことも知っているので、銃を持ってない人を狙うと。今まで聞いた話を通して、そういうヒグマのキャラクターを作ったのです。
坂東:どこを目指すかによっても対処は変わりますね。登山者が安全に山を楽しめるようにするのか、人の生活圏まで来なければいいとするのか。それこそ10数年前の稚内市なんてシカが街に出て来ただけでも大騒ぎでしたが、今や市役所前の芝生ですらシカだらけで。クマも、あそこならいてもいいかと、当たり前の景色に変わるかもしれません。
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