強烈なDNAと確かな才能「UTA」に心を奪われた 「ガス人間」の秀逸すぎるキャスティング

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 気化して体の形を自在に変えて移動し、標的を戦慄の方法で殺害。銃撃されてもノーダメージ。現代の科学では説明がつかない「ガス人間」。ベタな名称だが、史上最強のアサシンだ。この得体の知れないガス人間を追うのは、謹慎明けの刑事・岡本賢治(小栗 旬)とテレビ局の報道記者・甲野京子(蒼井 優)。これ、太刀打ちできん、無理ゲーだわと思ったものの、第3話でからくりと背景が明かされ、一気に引きつけられてね。

 ガス人間を演じたのはUTA。本木雅弘と内田也哉子の息子というか、樹木希林の孫というか、内田裕也の血筋というか、強烈なDNAと確かな才能を感じさせる、鮮烈なデビューだ。無機的な恐ろしさをたたきつけておきながら、胸を締め付ける切なさと物悲しさを醸し出して、すっかり心を奪われた。劇中に使われているサザンオールスターズの「いとしのエリー」は、ドラマ「ふぞろいの林檎たち」の主題歌。私にとってはイントロを聴けば、ふぞろいの面々が脳内に浮かぶ名曲だったが、UTAの全裸姿に一新されるかもしれない。

 テレビに出演していた大学教授(故モーリー・ロバートソン)が生放送中に惨殺される事件が発端。犯人はガス人間と名乗る。今後狙うのは、27年前にホワイトセンターに関係した人間だと、殺害を予告。ほぼ超常現象の殺人事件に、警察は打つ手なし。京子は度胸と記者魂でホワイトセンターの秘密を探っていく……というシリアスな1・2話とはトーンが異なるのが3話。登録者がほぼいない動画配信者の兄妹(林 遣都&広瀬すず)が登場。別名・お笑いパート。評価は分かれるようだが、不可欠と思えた。

 なぜならガス人間の事件に関わるのは、警察にテレビ局の報道局、間近に都知事選挙を控えた候補者たち、反社上がりの極悪人など、どっちかといえば権力側だから。射幸心と好奇心が強いだけでうっかり巻き込まれる一般人の兄妹が絡むことで、物語に緩急もついた。つうか、謎の監督役・高嶋政宏がおかしい。うらぶれたホスト役の賀来賢人も笑える。真剣に地下アイドルのMVを撮ってエンディングに使う片山監督の遊び心も楽しんだ。ここだけは無責任に笑えた。ガス人間が生まれた背景には、信じがたい人権侵害と悪しき権力構造が存在し、全体的には眉間に皺を寄せまくりだからね。

 あらすじを書くのは控える。とにかく悪い奴らを凝視してほしい。もうね、珠玉の役者陣が全力で悪辣(あくらつ)を楽しんでいるから。Netflix専属悪役俳優のピエール瀧が今作では逆に清らかに見えるほど。特に、岡部たかしの細かい仕草は万人に嫌悪感を催させる匠の技。また、最初誰か分からなかった松浦祐也。父親役の中野英雄に寄せた驚愕(きょうがく)の相似形と悪態に感心した。つうかぱーふぃにーって何だよ。強烈な印象を残したこばやし元樹、二枚目俳優の看板をかなぐり捨てた竹野内豊、下劣全開の野村周平や和田光沙は通常運転だが、最凶。

 キャスティングが秀逸で、旬と優の主演二本柱も完璧だから、遊び心と悪辣が生きる。役者陣の好均衡作だ。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2026年7月23日号掲載

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