「個人タクシーのドライバーが私服のおじさんでちょっと怖かった」…なぜ日本のタクシー運転手は「背広でネクタイ」なのか? いまも残る「おもてなし文化」に乗客の反応は

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進む電子化で減ったもの

 こうした昔からの固定観念の抜けないタクシーの現場でも、ドライバーに歓迎されている変化もあるという。それが「支払いのキャッシュレス化」だ。

 10年ほど前までは、タクシー料金をクレジットで支払おうとした際、ドライバーから露骨に嫌な顔をされたり、「現金ないですか」と言われたりすることもあった。それには彼らの事情があった。クレジット決済などで発生する手数料を、ドライバーに負担させるケースが常態化していたのだ。

 現在は国からの働き掛けもあり、ほとんどの現場で手数料が企業負担となっているようで、ドライバーからもこんな声が聞かれるようになっている。

「電子・カード決済だと、お釣りを用意する時間も手間も省けるのでドライバーにとってもメリットですね」

「昔はタクシーを狙った強盗事件が頻発していました。売上金を車内に置いておくのは心的負担でもあったので、いい変化だと思っています」

 その一方、この電子決済の普及によって失ったものも。

「現金の時はチップをよくいただけたんですよね。『お釣りは取っておいて。それでコーヒーでも買ってよ』と。大概が数百円ほどではありましたが、なかには羽振りのいいお客さんもいて、2、3000円の運賃でも1万円札を置いて行ってくれたことも。不景気というのもあると思いますが、電子マネーが普及してからは、もうほとんどそんな話も聞かなくなりました」

配車アプリと日本版ライドシェア

 電子化でもう1つ触れておくべきは、「配車アプリ」の普及だ。

 目的地の説明や支払時のタイムロスがなくなり、効率が非常に高くなったという。この配車アプリ最大のメリットは「客との会話や精算の必要性がないこと」だ。多くのタクシードライバーは、こう口を揃える。

「日本人はもちろん、インバウンド客獲得に大いに貢献しています。外国語で会話する必要がありませんから」

 前々回、ブルーカラーの収入が大幅に増えた、いわゆる「ブルーカラー・ビリオネア」の事例として、毎度タクシーが挙げられる違和感を紹介したが、観光都市や首都圏を走るタクシードライバーの売り上げが上がったのには、この「配車アプリの導入」が貢献しているといえる。

 東京を走る40代のタクシードライバーはこう話す。

「『流し』として街中を走りながら客を探すことなく、効率よく稼げるようになりましたからね。客が多い地域のドライバーの売り上げはそりゃ上がります」

 一方、この配車アプリを活用したサービスで懸念されているのが、2024年に解禁されたいいわゆる「日本版ライドシェア」だ。

 日本では、2024年4月から「日本版ライドシェア」がスタートした。元々、タクシードライバーになるには、客を乗せて運賃を徴収することができる「第二種運転免許」が必要だったが、この解禁によって、普通免許(第一種運転免許)しかもっていない一般ドライバーでも、自家用車を利用して客を乗せ運賃を徴収することができるようになった。

 ただ、海外で普及している方法とは違い、既存のタクシー企業が、日本版ライドシェアドライバーの運行管理を担い、地域や時間帯を限定して実施されている。

 それでもこの解禁にはタクシードライバー、とりわけ個人タクシーからの反発が根強い。東京近郊を走るタクシードライバーはこう話す。

「第一に、安全の確保に対する懸念ですね。免許もそうですが、『主業』か『副業』かで、仕事に向き合う真剣さは変わりますから」

 また、この日本版ライドシェアに参画できるタクシー業界は限定的だという声も。ある小規模タクシー企業の経営者はこう話す。

「一般ドライバーによるライドシェアは、点呼による管理や研修に関する負担が時間的にもコスト的にも増えます。そのため、小さい規模のタクシー企業はそもそも参入が難しいんですよね」

 バスやタクシーなどの旅客輸送においては、乗客の多様化やドライバー不足に伴い、サービスの多様化が求められるのは間違いない。だが、ドライバーの免許に対する多様化や規制緩和には、筆者自身も強い懸念を抱く。昨今、多発しているマイクロバスの事故に鑑みても、一種免許で人を輸送するべきではないと強く思うのだ。

 ちなみに、このライドシェアのドライバーは、服装はスーツでなくていいそうだ。もし、客の側がこの制度を受け入れるのなら、一般のタクシードライバーもスーツではなくてもいいことになるが、恐らく業界は「ライドシェアとの差別化」として、よりかっちりした服装をドライバーに求めるような気がしてならない。

橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)

デイリー新潮編集部

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