【米本社が売却検討】世界屈指の成功例「日本のスタバ」の30年 抹茶とご当地店で2,000店超の“優等生”が売られるワケ

  • ブックマーク

日本のスタバが集めた独特の支持

 私が注目したいのは、日本のスタバが海外、とりわけ本国アメリカと比べても独特の支持を集めてきた点だ。理由はいくつか考えられる。

 ひとつは“「サードプレイス(第三の居場所)」という思想が、日本の都市生活に絶妙にハマった”ことだ。職場でも家庭でもない居心地のいい空間というコンセプトは、喫茶店文化を持ちながらも個人経営店が縮小しつつあった日本の都市部に、きれいに着地した。

 そしてもうひとつ、初期の日本市場で見逃せないのが、ノートパソコンを広げて仕事や勉強に打ち込む「ノマドワーカー」、いわゆる”スタバでMacBook”に象徴される意識の高いビジネスパーソンの利用シーンだ。Wi-Fiと電源を備え、長居が許される空間は、フリーランスやIT系の働き手にとって格好の”出先のオフィス”となった。「スタバでドヤ顔」などと半ば揶揄まじりに語られたこの光景こそ、当時の新しい働き方とブランドイメージが結びついた象徴であり、スタバを単なるカフェ以上の存在へと押し上げた一因だった。

 さらに全面禁煙という、当時としては先進的な打ち出しも大きい。喫煙可の喫茶店が当たり前だった時代に、女性や若年層、そして仕事に集中したい層が安心して長居できる空間を提供した意義は大きい。

「コーヒー」ではなく「人」のビジネス

 日本のスタバ最大の強みだと思うのは、実はコーヒーそのものではなく、人である。「パートナー」と呼ばれる従業員の接客力の高さだ。

 紙コップにペンで手書きのメッセージを添える、客の様子に合わせて一言かける……こうしたヒューマンタッチのサービスは、マニュアルを超えた”その人らしい”対応として語り草になってきた。日本人の「おもてなし」感覚と響き合い、リピーターを生む大きな要因になっている。

 細かな接客動作を縛るのではなく、「サードプレイスとしてどうあるべきか」というブランドの価値観を共有する。手厚い初期研修やOJT(実地教育)に重きを置き、アルバイトを含めて丁寧に育成する。自分で考えて動ける余地を残す接客スタイルだから、チェーン店なのに画一的に見えない温かみがある。

 外食・喫茶業界全体が人手不足と縮小に苦しむなかで、スタバだけが店舗数を伸ばし続けてきた背景には、こうした「人」への投資があるのだろう。2024年3月末時点で1,917店舗、2025年3月末には日本における店舗数が2,011店舗に到達した。“黒船”は四半世紀で巨大客船になった。

次ページ:日本発の価値

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。