複雑すぎる構図も下描きなしでサラサラと…「生成AI」など足元にも及ばない「手塚治虫」の“神技”が炸裂したサイン会での驚愕エピソード

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サイン会では“神対応”を連発

 現在は解散してしまった「手塚治虫ファンクラブ」の会誌「手塚ファンmagazine」114号には、「手塚先生のサインと思い出」という特集があり、手塚氏のサイン会にまつわる多彩なエピソードが紹介されている。没後それほど経っていない時期に刊行された会誌ということもあり、記憶が鮮明なファンが多く、貴重な資料になっている。掲載された証言のほかに、筆者が過去に取材で得たエピソードなどを交えつつ、手塚氏のサイン会の様子を振り返ってみたい。

 昨今の漫画家のサイン会では、運営側が用意したイラストが印刷された色紙に、漫画家が文字(名前)だけのサインを入れるのが一般的である。もちろん、ファンならどんなかたちであれサインがもらえたら嬉しいし、憧れの漫画家に会えて握手できただけでも幸せだろう。ところが、手塚氏はこうしたサイン会で、とんでもない“神対応”を連発していたのだ。

 手塚氏は、サインだけでなく、丁寧なイラストを添えるのがいつものことだった。しかも、生み出したキャラは膨大な量だが、手塚氏はそのほとんどを暗記しており、「〇〇を描いてほしい」というリクエストがあればその場ですぐ応じることができた。しかも、資料は一切見ずに、だ。「アトム」をリクエストしたそれぞれのファンに、違う構図の絵を描いて渡していたという話もある。

複雑な構図も下描きなしで描ける

 手塚氏がとんでもないのは、下描きをしないと描けないような複雑な構図も、サイン会という場で、一発描きでサラサラと描いてしまうことであった。キャラが足を組んだり、空を飛んでいる構図などは朝飯前。「アトムが空を飛んで戦っている絵」などの細かい指定も余裕でこなし、まるで漫画の一コマのような構図であっても、下描きなしで描くことができたようである。

 前出の会誌には、「リボンの騎士(サファイア)をリクエストしたら、おまけでユニコも描いてくれた」というエピソードや、「単行本のこのシーンの絵を描いてほしい」などの無茶振りのリクエストにも、嫌な顔一つせずに笑顔でなんなくこなしていたという、驚きの逸話が載っている。

 極めつきは、あるファンが『どろろ』の百鬼丸をリクエストしたときのエピソードだ。ファンに対し、手塚氏は「漫画とアニメの百鬼丸のどちらを描いてほしいか」と聞いてきたのだという。そう、漫画とアニメでは、微妙にキャラクターデザインが違うのである。手塚氏はそんな細かいことを自分から申し出るほどファン思いだったし、驚異的な記憶力を持っていたことがわかる。

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