「松屋」が「松屋銀座」で売るプレミアム牛めし1390円 ライバルは成城石井か、吉野家か…意外な“本命”とは
吉野家の「牛重」、ロイヤルホストの先行例
松屋PREMIUMを「点」ではなく「線」で捉えると、牛丼チェーンの高級化路線の系譜が見えてくる。
その代表が吉野家の「牛重(ぎゅうじゅう)」だ。吉野家では、国会議事堂内の永田町一丁目店で販売していた「牛重」が知られている。その後、2015年から羽田空港第3ターミナル店でも販売され、2021年5月には永田町一丁目店で黒毛和牛を使った「黒毛和牛重」へと進化。A3〜A5ランクを含む黒毛和牛肩ロース(厚さ約4mm、通常牛丼の約3倍)を使ったこのメニューは、2021年8月に数量限定で全国販売され(店内税込1419円)、さらに2024年時点では永田町一丁目店と羽田空港第3ターミナル店で「黒毛和牛重」の販売を継続している。2026年5月には、国産牛を使った重箱メニュー「絶品牛重」も全国展開した(店内税込1207円)。
ただし吉野家の牛重が「特別な場所で食べる体験」を売るのに対し、松屋PREMIUMはデパ地下で「家やオフィスに持ち帰る上質な一食」を売る。同じ高級化でも、狙う需要が根本的に違う。
ファミレスに目を移せば、この分野の先駆者はロイヤルホストだ。「250g 黒×黒ハンバーグ」が税込1958円、「225g アンガスサーロインステーキ&天然海老フライと紅ずわい蟹のクリームコロッケ」に至っては税込4598円。一般的なファミレスの客単価をはるかに超える商品を、定番・フェアで投入している。牛肉などの原材料・物流費の高騰を背景に、同社は段階的な値上げに加え、一部店舗で都市別価格まで導入した。デニーズやジョナサンなども、黒毛和牛やうなぎ、蟹を使った季節フェアで2000〜3000円超の商品を打ち出す流れにある。
値上げで「いつもの一皿」の単価が上がる一方、各社がそれとは別に「たまのご褒美」「インバウンド」「百貨店・空港」向けのプレミア商品を用意している。消費の二極化(K字化)が、外食のメニュー構成にもはっきりと表れているのだ。松屋PREMIUMは、この潮流の中でも最も小売・中食寄りに振り切った事例だろう。
牛丼チェーンが「デパ地下ブランド」になる日
「1日600~700食、100万円」の売り上げを目指しているという松屋PREMIUM。その成否はまだ分からない。松屋フーズの担当者は、提供するメニューは通常店の「上位互換」だとも説明していた。とはいえ、通常店のできたて牛めしの美味しさや安さを考えると、「こっちでいいや」と感じる消費者も少なくない気がする。そもそも通常店も、近年、テイクアウトの「松弁」に力を入れているから、“本当のライバルは自分”になる可能性も大きい。
しかし、今回の出店が示しているのは、もはや牛丼チェーンが牛丼だけを売る時代ではないということだ。外食と中食の境界は曖昧になり、デパ地下とチェーン店の垣根も低くなっている。消費者のニーズが多様化するなかで、企業は従来の業態の枠を越えて顧客を獲得しようとしている。
わずか1.5坪の小さな売場だが、その先には外食産業の新しい可能性が見えている。
松屋PREMIUMは単なる話題店ではない。値上げ時代を生き抜くために外食企業が模索する「次の一手」を象徴する存在として、今後の売上動向にも注目したい。







