「おこちゃま」「ガキだね」「なめるな」検察官はなぜ取調室で暴言を吐いてしまうのか

国内 社会

  • ブックマーク

 再審制度に関する自民党内での白熱した議論、あるいは対立からわかるのは、検察への見方がかつてよりもはるかに厳しくなっているということだろう。冤罪、違法な取り調べ、証拠の捏造、強引すぎる起訴から部下への性的暴行まで、この数年を見ても、検察の問題点が浮き彫りになった事案は多い。

 こうした問題について、かつて取調室で対峙した関係の二人が徹底的に語り合う。そんな前代未聞の一冊が『特捜取調室 『国家の罠』20年目の再対決』(佐藤優・西村尚芳著)である。元外務官僚で作家の佐藤優氏はいわゆる「鈴木宗男事件」で2002年逮捕されている。西村氏はその際、取り調べを担当した特捜部検事である。

 この時の嫌疑についてはさておき、佐藤氏は西村氏の取り調べの姿勢には納得していた。一連の経緯をまとめたベストセラー『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』の中では、西村氏について「誠実で優れた、実に尊敬に値する敵であった」と評しているほどである。

 公判以降顔を合わせていなかったかつての「敵」が、検察をテーマに語り合った対談の中で、まず取り上げられているのが、乱暴な取り調べの問題だ。怒鳴り、暴言を吐き、被疑者を萎縮させる――一昔前の刑事ドラマさながらの手法がなぜいまだに取られるのか。
 佐藤氏と西村氏、かつての被疑者と取調官が本音で語り合った(以下、『特捜取調室 『国家の罠』20年目の再対決』をもとに再構成しました)。

 ***

「検察なめんなよ」

佐藤 最近、検察官の取り調べにおける暴言が問題になり、検察への批判が強まっています。横浜地検で黙秘権を行使した被疑者に「おこちゃま」「ガキだね」と発言した件や、東京地検でも被疑者に対して「反社(反社会的勢力)や」と脅したというものがありました。横浜地検のほうは、黙秘権を侵害されたと訴えられてもいます。

 普通の検察官は普通に取り調べているのに、今のニュースを見ていると、黙秘権も告知しないとか人格を侮辱しながら取り調べるというのが、検察官の標準的な形態に見えてくる。真面目にやっている検察官にとってはやってられないですよね。これは検察庁の名誉にかかわる問題でもあります。

(※横浜地検の件は、ある事件の関係で逮捕された弁護士が黙秘権を行使したところ、21日間56時間にわたって検事から「おこちゃま」「ガキだね」などと侮辱的な取り調べを受けたというもの。また東京地検の件では、被疑者が「検察庁を敵視するってことは反社や」と脅され、自白を迫られたとして、国家賠償訴訟を提起。最高検察庁はこの取り調べを不適正と認定している)。

西村 この二件には共通点がありまして、相手が思い通りにしゃべらないから検察官が怒ってる。上から目線なんです。

 でも、検察官と被疑者の違いは何かといえば、しょせん、立場の違いです。向こうは犯罪の嫌疑がかかっているからこちらで調べる。それだけの違いなので、こちらが上に立って一方的にどうこうできるわけではない。

 私も、特捜部を指導する役割だった時は、「立場の違いがあるだけで、上下関係はないんだ」と部下にうるさく言っていました。だから、今回問題となった検察官には勘違いがあるなと思っていました。そもそも、黙秘権については、憲法で保障された権利ですからね。黙秘されてカッカするというのは、どう考えてもおかしいです。

佐藤 暴言や不適切な発言をする方もする方で問題なのですが、一方で、取り調べの現実というものをもう少し考えるべきではないかと思います。犯罪者の取り調べはきれいごとではない。検事が声を荒げたりとか、「このガキが」と言うぐらいのことはあり得るのではないでしょうか。それすら許されず取り調べる側が萎縮したら、犯罪者の取り調べなんてできなくなってしまいます。声を荒げるのがダメなら、真綿で首を絞めるようにやればいいのか。そこのところで、なんか本質からずれた議論になっているような気がします。

プレサンス事件と郵便不正事件

佐藤 こうした一連の事件の中で、検察批判が強くなる決定打となったのが、大阪地検特捜部が手がけたプレサンス事件だと思います。検事が「検察なめんなよ」と暴言を吐き、嘘の証言内容を強要した事件で、無罪が確定しました。

 この無罪判決を勝ち取った山岸忍さんが自身の体験を書いた『負けへんで! 東証一部上場企業社長vs地検特捜部』(文藝春秋)を読むと、山岸さんを取り調べた女性検事は、言葉使いは馴れ馴れしくやっているのだけれど、山岸さんが主張していることを何も聞いていないことがわかる。大阪地検の中では「チーママ」と呼ばれていたらしいですが、多分、上が作ったストーリーを押し付けているだけで、山岸さんには容疑を認めて「早く済ませてしまった方がいいよ」と言っているだけです。

西村 これは、現場の検事にとっては非常に厳しい状況下で仕事が進んでいた案件だと思います。今回のプレサンス事件で起こった問題は、実は09年に郵便不正問題で大阪地検特捜部に逮捕された村木厚子・元厚労省事務次官(04年の事件当時は社会・援護局障害保健福祉部企画課長)の事件にさかのぼるのです。

 郵便不正事件で一番問題なのは、検察の現場が客観証拠を無視したことです。だから間違った。主任検事は、不正を行なった団体幹部や傷害保健福祉部の係長の供述に依存して間違った筋立てをした。その筋立てと整合しない客観証拠であるフロッピーディスクが発見されると、そのデータを改竄して間違いを隠蔽し、間違った起訴をした。この不正行為が発覚した後、上司である特捜部長や副部長は、主任検事をかばうため、上級庁に話を通さず、大阪地検の内部だけで問題を処理して改竄を隠蔽し間違った裁判を続けた。上級庁、つまり高等検察庁(高検)や最高検察庁(最高検)が全然知らないところで、間違った話が進んでいたのです。

 郵便不正事件の反省から、いくつかの改革がありました。ひとつは、特捜が動くときはきちんと上級庁に話を通し、検事長の指揮を受けるというシステムを作ったこと。もうひとつは客観証拠を重視する体制づくり。さらに、これは大阪にとっては最もきつい話なんですが、大阪の特捜部内の人事を東京で決めるようになり、東京から大阪の特捜部長が出るようになったことです。実は私はその東京からの三人目の特捜部長なんです。私の赴任が終わって、大阪に人事を戻したのです。もうそろそろ大丈夫ではないかという判断があったのだと思います。そこへプレサンス事件が起こった。大阪出身の特捜部長に戻って、東京出身の部長を一人はさんだ後の二人目の純粋な大阪出身の特捜部長の時です。

佐藤 そうだったんですね。

西村 この事件で、いよいよ山岸さんに着手するとなったときに、山岸さんの関与を証言した重要証拠として二人の供述があったようです。ひとつは、山岸さんの部下から「検察なめんなよ」と脅して取った供述。もうひとつは、山岸さんを逮捕する直前に撤回要望が出された取引会社社長の供述です。この撤回の要望は録画されていますから、この時点で供述は撤回されたと言って良い。供述を撤回された検察官は、主任検事に「逮捕は待った方がいいですよ」と進言したそうです。それは常識的な発想だったと思います。上級庁に報告して逮捕オーケーとなった時とは、重要な部分で証拠関係がかわってしまったわけですから。やはりもう一度、上級庁に逮捕すべきかどうか相談しなければいけなかったと思います。

佐藤 そういうことがあり得るんですか。

西村 もちろんあり得る。今日請求して逮捕状を取ったからといって、今日執行しなければならないわけではないんです。逮捕状には有効期間がありますから。例えば被疑者が外国に行こうとしているような場合は逃亡の恐れもあるので大変ですが、時間があるなら別に急ぐ必要はない。それで再検討して、もう一度仕切り直ししましょうか、もうちょっと検討しましょうということは普通にあることなんです。しかももう一つの「検察なめんなよ」と脅して取った証拠は、重要な傷があるということになります。今回は、こういう重要な傷について上級庁に上げて判断を求めてないみたいですね。でも、そういうことまで上げろというのが検察改革で、「隠すな」というのが基本だったはずなのです。

佐藤 東京から人を出しても改善されなかったということですか。

西村 本来はそれを徹底するために東京からわざわざ人を出したわけですが、やはり短期間のショック療法では不十分だったということでしょうね。言葉は悪いですが、東京から行った人間は東京しか見ないし、大阪の人は大阪しか見ない。だから、大阪の人は、上級庁から最高検という東京の方にいくラインを軽視する傾向が確かにあるんです。でも、本来、現場の担当検察官はそんなに無理しないものなんですよ。上げるべき報告はきっちり上げて、客観証拠と見比べて慎重に捜査を進めたいと思うのが普通です。しかし、大阪地検の中で、上司から「なんとかせえ」とプレッシャーがかかっていれば別ですね。東京に繋がるラインより大阪の上司を重視する。それでおかしなことがいろいろ起こってくる。

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。