公務員なのに給与がない「公証人」とは何者か――西村尚芳(霞ヶ関公証役場公証人)【佐藤優の頂上対決】

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 今回のゲストは佐藤優氏を逮捕、取り調べを行った東京地検特捜部の元検事・西村尚芳氏である。二人は昨年、約20年ぶりに再会し、以後、交遊を続けている。あの逮捕劇は何だったのか。その後どんな日々を送ってきたのか。そして公証人となった西村氏はどんな仕事しているのか。互いに半生を語り合った

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佐藤 本日お招きした公証人の西村尚芳さんは、私とは浅からぬ因縁があります。私は外務省時代の2002年、背任や偽計業務妨害で東京地検特捜部に逮捕されましたが、その時に私を逮捕し、その後、取り調べを担当した検察官が西村さんです。

西村 あれからもう20年以上たつのですね。

佐藤 公証人になられたことは聞いていましたが、昨年末に公安調査庁へ行った際、新任の次長さんから「西村さんとは名古屋地検特捜部で一緒に仕事をしていた」というお話を聞いたんですね。さらに「佐藤さんに会いたがっていましたよ」とおっしゃる。ですからすぐに直接お電話して「会いましょう」ということになった。

西村 いやいや、最初の電話は「会いましょう」ではなく、「今からそっちに行こうか」じゃなかったですか(笑)。それで「それはちょっと勘弁して」と言った覚えがあります。そして日にちを改めて、会うことになったんですよ。

佐藤 ああ、そうでしたね(笑)。それで再会を果たし、その後も会っていますが、本日は改めて当時の思い出やいまの仕事について、お話を聞かせてください。

西村 はい。それにしても、才能のある方だとは思っていましたが、ものすごい活躍ぶりですね。

佐藤 西村さんこそ、その後に東京地検特捜部副部長になり、大阪地検特捜部長も務められた。かつての私にとっては「尊敬に値する敵」とも言うべき存在でした。ただ私の著作『国家の罠』の中では実名で取り調べの様子を描いたので、出版以降は大変だったのではないですか。

西村 けっこう風当たりはキツかったですね(笑)。もっともあの本の私はひきょうな人間や悪人として描かれているわけではない。また取調官として、おかしなことはしていないし、利益誘導もしていません。ですから怒る人もいましたが、面白がる人もけっこういたんですね。そういう人が引っ張ってくれた。

佐藤 西村さんはさまざまなポストに就かれていますが、基本は特捜検事ですね。

西村 そう言っていいと思います。特捜部は東京、大阪、名古屋の三つの地方検察庁にしかありませんが、それらすべてに勤務し、東京では特捜部副部長、大阪では特捜部長を務めました。その後、最高検察庁にも行っていますが、そこも各特捜部の強制着手事件をチェックする特別捜査係というポジションでした。

佐藤 特捜事件と一般の刑事事件には、どんな違いがありますか。

西村 最大の違いは警察が入るかどうかですね。特捜事件は警察が入らず、検事たちが捜査をする。警察が捜査する一般の刑事事件では、検事たちは捜査官ではあるけども、半分は審査官の立場になるんですね。

佐藤 公判が維持できるかを見る。

西村 そうです。証拠が足りないとか、これで大丈夫かとか警察に口を挟むので、すごく嫌がられる。でも審査官的な目で見る人がいることは大切なんですよ。特捜事件では検事は捜査官として捜査を行うわけですが、この場合も、審査官的な立場の別の検察官が関与して間違いがないか見てもらうことになっています。

佐藤 やはり何でも行き過ぎることはありますからね。警察官は常に不起訴にならないか、神経質になっています。

西村 不起訴の時に警察を納得させるのが大変です。逆に言えば、この証拠では無理だと納得させることが、検察官の腕の見せ所になる。

佐藤 特捜事件はほとんど起訴までいきますか。

西村 そうでもないですよ。

佐藤 検察の筋書き通りに話したりする人が出てくれば、起訴になったりする。

西村 またまた、そんなことを言う(笑)。ただ、一般に強制捜査を行う前にかなり証拠を吟味していますから、起訴できるという前提では逮捕しますね。

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