クラシックの名曲「四季」は戦後までほとんど知られていなかった…「ミラノ五輪」演出家が手がけた話題の映画「ヴィヴァルディと私」 ミキエレット監督にインタビュー

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ミラノ冬季五輪の演出家、ミキエレット監督に聞く

 この映画を監督したのは、イタリアのダミアーノ・ミキエレット(1975~)。この2月に開催された、ミラノ・コルティナ冬季五輪の開・閉会式でクリエイティブ・ディレクターをつとめたひとである。プッチーニやヴェルディ、ロッシーニに扮したダンサーのほか、マライア・キャリーや、イタリアの有名歌手たちが続々登場した。

 実はこのミキエレット氏は、世界的なオペラ演出家なのである。ミラノ・スカラ座、パリ・オペラ座など、名だたるヨーロッパの歌劇場で名演出を披露し、オリヴィエ賞などを受賞している。

 日本でも、新国立劇場で、現代のキャンピング・カーに舞台を移したモーツァルトの「コジ・ファン・トゥッテ」を演出して話題となり、再演されている。2024年に「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」で上映された「カルメン」も、彼の演出だった。

 そのミキエレット監督が、オンライン・インタビューに応じてくれた。

――ヴィヴァルディの「四季」は日本でも人気があるので、みんな期待しています。なぜ、監督することになったのですか。

「この映画の製作会社〈INDIGO FILM〉のオフィスは、ローマ歌劇場のすぐそばにあるのです。あるとき、そこのスタッフが、同歌劇場で上演されている、わたしが演出したオペラを観ました。そして、“この演出家に新作映画を監督してもらいたい”と考え、相談に来たのです。わたしは、ヴィヴァルディを描いたティツィアーノ・スカルパの小説『スターバト・マーテル』が気に入っていたので、ぜひこの小説を映画化したいと提案し、実現に至りました」

――この小説は、2009年に、イタリア最高の文学賞〈ストレーガ賞〉を受賞していますね。日本でも邦訳が出版されています(中山エツコ訳、河出書房新社刊、2011年/この5月14日に『ヴィヴァルディと私』と改題、新装版が発売)。最初に読んだときから、映画になると思ったのですか。

「スカルパ氏は、フィクションとノンフィクション(真実)の両方をうまく両立させて盛り込む作家です。ということは、さらにフィクションを盛り込める余地がある。しかも音楽でストーリーが語れる。とても映像向きだと、読んですぐに感じました」

――しかし、映画のラストが、原作小説とはまったくちがうので、驚きました。

「彼女がまだ見ぬ母親に手紙を書くなど、原作どおりのシーンもあります。しかし、新たなシーンや設定も、たくさん入れました。彼女をめぐる結婚のエピソードも、創作です。ラストについていえば、わたしは、ぜひチェチリアに人生をやりなおしてもらいたかった。ピエタ院のなかで、これ以上自分にできることはもうない、だから、ああいうラストに変えたのです。ここはぜひ、スクリーンでご確認いただきたい部分です」

――原作を“改変”したことに、スカルパ氏はどんな反応でしたか。

「わたしはスカルパ氏を個人的によく知っています。しかもおなじヴェネツィア人で、以前に一緒に仕事をしたこともある仲です。それだけに気心も知れていたので、あるとき『設定を変え、題名も“Primavera”(春)にしたい』と相談しました。すると『小説と映画は、まったくちがうのだから、当然だ』といってくれました。完成した映画を観て、『とても好きだ。もっと長い話にしてもよかったのになあ』といってましたよ」

――そこまで創作を加えたのなら、いっそ「四季」は、チェチリアのために書かれ、ピエタ院で「初演」されたとの設定にしてしまっても、よかったのではないですか(笑)。

「それはいいアイディアですね!(笑)。たしかにもっと深堀りして描きたかった部分もありますし、会話のなかに、もうすこし『四季』にかんすることを入れればよかったかもしれません。しかし、あまりに創作が過ぎるのもよくないので、あれくらいにとどめたのです」

――今回は、初めての映画監督作品だったそうですね。初体験のご感想は?

「ベリッシマ! “とても美しい”、感動的な体験でした。毎日が新しい発見の連続で、子どもみたいに驚いてばかりでした。撮影監督のダリオ・ダントニオ、編集のヴァルテル・ファサーノ、衣裳のマリア・リータ・バルベラ、音楽のファビオ・マッシモ・カポグロッソ……すばらしいスタッフにも恵まれました。〈ワーナー・ブラザース・イタリア〉が製作協力してくれたことも大きかったです」

――映画第2作のアイディアが、もうあるのでは?

「いま、題材を探しているところです。あまり期待されると、緊張してしまいますね(笑)。やはり音楽に関係した作品が希望ですが、小品ではなく、大きな世界を描くものにしたいと思っています」

――ところで、ミキエレットさんは、お好きな日本の小説や作家がありますか。

「わたしは、川端康成が大好きなんです。とてもメランコリックで美しく、雰囲気があって、よく読みます。特に『雪国』と『美しさと哀しみと』が好きです。これらを映画化したいような気もしますが……え? どちらも、すでに日本で映画になっているのですか。そうでしょうねえ(笑)」

 昨年の2025年は、「四季」が最初に出版(おそらく作曲も)された1725年から「300年」の節目だった。一時忘れられていたとはいえ、バッハが研究したほどの存在である。そんな作曲家と愛弟子に焦点をあてた映画「ヴィヴァルディと私」は、5月22日から全国公開される。

「ヴィヴァルディと私」
配給:彩プロ (C)2025 INDIGO FILM, WARNER BROS. ENTERTAINMENT ITALIA, MOANA FILMS

富樫鉄火(とがし・てっか)
昭和の香り漂う音楽ライター。吹奏楽、クラシックなどのほか、本、舞台、映画などエンタメ全般を取材・執筆。シエナ・ウインド・オーケストラなどの解説も手がける。

デイリー新潮編集部

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