高島屋の5年ぶり赤字転落で分かった 中国客減の「百貨店」が外国人観光客に売るべき“2つのモノ”
オーバーツーリズム対策の好機ではあるが…
高市早苗首相の台湾有事に関する発言をきっかけに、中国側が渡航自粛を呼びかけた点は大きく、特に11月以降にそれが顕著になりました。2025年を通してみれば、中国人客は前年比30.3%増の909万6,300人だったものの、年末から減少に転じたことで、年間のインバウンド総客数の伸びを鈍らせたとみられます。
別の視点に立てば、オーバーツーリズム対策をしっかり進める好機と言えます。とはいえ、日本は人口減少が進んでいます。若年層や地方の消費力が弱まる中で、国内消費の落ち込みは避けられません。ゆえに、外国人観光客によるインバウンド消費は、数少ない“勝ち筋”のひとつであることも事実。2025年の消費額9.5兆円は日本経済にとって大きな支えです。が、ただ人数を増やすだけでは限界があります。政府が目指す2030年の目標は訪日客数6,000万人、消費額15兆円です。一人当たりの消費単価を25万円程度に引き上げる必要があり、“質”への転換が鍵になる。
消費経済の視点で見ると、インバウンドは日本経済の構造転換を後押しする重要なドライバーです。人口減少で国内市場が縮小する中、外国人観光客の消費は輸出に匹敵する効果を発揮します。2025年の一人当たり旅行支出は約22.9万円と高水準を保っていますが、これをさらに押し上げるには、モノ消費からコト消費へシフトを加速させる必要があり、百貨店にはそのポテンシャルがあると私は考えています。百貨店をはじめとする小売業は、ここでビジネスモデルの見直しを迫られているのです。
どう変わる?二つのポイント
では具体的にどう変わればいいのか。ポイントは二つあります。
一つは、ハードルは高いですが、海外製のラグジュアリーブランドの販売から日本製の高額品の販売にシフトすることでしょう。それも単なる値段の高さで売るのではなく、技術・伝統・ブランドストーリーがしっかり詰まった商品群に軸足を移すことです。
たとえば南部鉄器の鉄瓶は10万円から数十万円しますが、職人の技と歴史が価値を支えています。輪島塗、有田焼、江戸切子といった伝統工芸品も同様です。日本ブランドの化粧品や時計・宝飾類も売りになるはずです。資生堂のクレ・ド・ポー ボーテ、ポーラのB.Aシリーズ、コーセーのコスメデコルテ、アルビオン、THREE、グランドセイコー、ミキモトなどが候補となるでしょうか。これらはただのモノではなく、日本独自の匠の技や文化的な背景が付加価値になっています。訪日客、特に欧米やアジアの富裕層・リピーターはこうしたストーリー性を強く求めていて、単価も安定しやすい。輸入ブランド中心から、日本ならではの付加価値を前面に出す戦略が有効になります。
私もかつて業界にいたので強調したいのですが、日本化粧品の強みは、品質が保たれる安定性と、肌へのやさしさにあります。製造管理が非常に厳しく、ロットごとのバラつきが少なく、長く使っても安心できる。当たり外れが少ないという信頼感が訪日客に支持されています。特に資生堂やポーラの製品はその代表です。敏感肌向けの低刺激設計が多く、刺激より継続使用を重視した処方が特徴で、日本人の肌データを豊富に持っている点も大きな魅力です。イプサやアルビオンなどはそうしたやさしさを体現しており、海外の消費者が日本コスメに求める安心感と実用性を兼ね備えています。
百貨店が取り組むべきもう一つの視点は、“体験”の要素を強く取り入れることでしょう。物産展やバレンタインなどの「催事」は、国内顧客を中心に好調に推移している一方で、まだインバウンド顧客を十分に取り込めていない実情があります。百貨店は単に物を売る場ではなく、顧客が日本文化を体感できる空間に進化すべきなのです。イートインを中心とした飲食スペースを充実させるなどして、こうした催事を通じてインバウンド顧客を引き込む取り組みが今後ますます重要になります。
どういった催事が考えられるでしょうか。伝統工芸の職人による実演販売、化粧品カウンターでのパーソナルカウンセリング、和菓子や日本酒のテイスティングを交えたイベントなどは、買い物と体験を融合させ、滞在時間を延ばして消費を促せそうです。こうした工夫は客単価を上げるだけでなく、リピート意向を高め、口コミで新しい顧客を呼び込む効果も期待できます。
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