首都高で“カーチェイスを無断撮影”も…わずか2作で映画史に名を刻む「長谷川和彦監督」が語っていた「もう1本撮らないと死ねない」

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「死期が近い気がするから、もう1本撮りたい」

 ところで先述のように、ゴジさんは、俳優・エッセイストの室井滋さんと、長年のパートナー関係だった。1980年代後半から、同居がはじまったという。最後まで籍を入れなかったのは、「富山で十代つづいた室井家の姓は、彼女で最後なので、残してあげたかった」旨を、かつてのインタビューで答えている。

 そんなゴジさんと室井さんとは、どんな毎日だったのだろうか。昨年12月に刊行されたエッセイ集『やっぱり猫 それでも猫』(中央公論新社刊)のなかで、室井さん自身、こう綴っている。いうまでもなく室井さんは大の猫好きで、執筆時、6匹の猫を飼っていた。

〈仕事柄、地方に行くことが多い。/我が家には同居人のオッチャンがいるので、猫の世話については取り敢えず安心して出かけられる。/オッチャンもウルトラ猫好きなので、猫達も私の不在を淋しがることなく楽し気にやってきたものながら…(略)〉

 そして以下、実に微笑ましい、ゴジさんの猫好きぶりが描かれる。そして、こんな一節が登場し、いまとなっては、少々ビックリする。

〈そして目下の私達の話題の中心は“墓”に関してだ。(略)そもそも自分達は正式に籍も入れていない、いい加減な仲で、現世でそうなのだから互いが死んだ後のことなど何も考えちゃあいない。〉

 そのお墓については、ゴジさんは、ペットと一緒に入れる墓地の情報を集めているのだという。そして、こう語った。

〈「場所は遠くたって構わない。出来れば日当たりのいい、高台がいいなぁ。そしてよぉ、墓石にゃあ“GOJI(オッチャンの愛称)と猫達”……いや、“GOJIと可愛い仲間たち”って刻んでくれよ。うん、いいなぁ~。ずっと一緒で……。お前は富山かぁ……。淋しいから、お前も小指だけ一緒に入ったらどうだ?」〉

 最終的に、ゴジさんは、施設に入って亡くなったという。一時期は、連合赤軍を題材にした映画を構想していたそうだが、それも実現できなかった。2022年10月、国立映画アーカイブで、特集上映〈長谷川和彦とディレクターズ・カンパニー〉があった際、トークゲストとして登壇した。その際、おおむね、こんな主旨を語っていた。

「映画を撮りたい。もう43年も撮ってない。どうも原作ものは、おれはダメ。連合赤軍事件は、20年前に書いた脚本があるけど、2時間や3時間では無理。ネットフリックスで10時間とかでやったらどうだというひともいる。でも、おれは死期が近づくと撮るんだ。『青春の殺人者』のときも、そうだった。最近、死期が近い気がするから、来年あたり、撮りたい。もう1本、撮らないと死ねない」

 たしかに死期は近かったが、残念ながら、新作は実現しなかった。しかし、ゴジさんは、素晴らしい2本の映画を残してくれた。「青春の殺人者」と「太陽を盗んだ男」は、おそらく恒久的に上映され、愛され続けるだろう。ご冥福をお祈りします。

森重良太(もりしげ・りょうた)
1958年生まれ。週刊新潮記者を皮切りに、新潮社で42年間、編集者をつとめ、現在はフリー。音楽ライター・富樫鉄火としても活躍中。

デイリー新潮編集部

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