足指の「つかむ力」と健康長寿の知られざる関係 衰えている場合の調べ方は?

ドクター新潮 ライフ

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地面をつかみ押す力

 研究をスタートした頃は、幼児の身体能力に関する調査がメインだった。最近の子供は裸足で走り回る経験が少ないため、運動能力の低下が指摘されていたのだ。

 しかし、データを集めるうち、高齢者にとっても足指が重要であることが分かってくる。

「例えば、移動能力を測る『タイムド・アップ・アンド・ゴー・テスト』というのがあり、医学界ではTUGTと呼ばれています。どれだけ速く歩けるかを測るのですが、時間がかかるほど衰えが進んでいることを示している。このTUGTのデータと、足指の握力に深い関連性があることが分かってきました」

 テストを受けた高齢者ならご存じかもしれないが、TUGTは椅子に座った状態から立ち上がり、3メートル先に立てた棒やコーンを回って、また戻ってくるというもの。一般に13.5秒以上かかると転倒リスクが高まり、介護が必要とされる。

「TUGTは、足指の力が弱っている人にとっては、ちょっと難しいのです。例えば椅子から立ち上がるという行為は、重心移動すれば簡単ですが、お年寄りにはできない人がいる。立ち上がるには、体の重心を前に持ってゆく。次に足指を踏ん張ってそれを受け止めるという一連の動作が必要になるからです」

 立ち上がると、今度は歩くための力が必要になる。足指で地面をつかみ、押し返すという動きだ。これができないと、歩みは自然と遅くなる。

「他にもアキレス腱の下にある『足底腱膜(そくていけんまく)』が歩行に大きく関係します。人は歩くとき、テンションをかけるように、ぐっと足底が固くなる。その際、固くなるのが『足底腱膜』ですが、それには足の指にしっかり力がかかっていないと固くならないのです」

 もっとも、研究をスタートさせた頃は足指の力を測定する手段がなかった。標準的な足指の握力がどれぐらいなのかも知られていなかったのだ。

2000人のデータ

 そこで瓜谷教授は先輩や同僚と共に、測定器を開発するところから始める。そして、でき上がったのが先の「足指筋力測定器」である。それを携えて、時間を見つけてはショッピングモールなどに出かけ、通行人などに協力を呼びかけた。そうやってデータを集め、2014年に論文を発表する。

 測り方はまず、足首をベルトで測定器に固定する。足が置かれる部分の先端には金属のバーが付いており、足指を掛けて全力で約3秒間引っ張る。すると、モニターに何キロという数字が表れる仕組みだ。握力計の“足版”といっていい。

 瓜谷教授が続ける。

「測定した人数は現在、2000人を超えていますが、当時、調査したのは20歳から79歳までの1842人の男女でした。10歳ごとに年齢群を六つに区切り、年齢を経るとどう変化するのかも観察した。すると、男性では50代以降、女性は40代から60代にかけて明らかに足指の握力低下が見られたのです」

 瓜谷教授の調査によると、年代別では30代が最も足指の握力が強く、

(50代)

男性14.4キロ

女性8.9キロ

(60代)

男性12キロ

女性8.9キロ

(70代)

男性10.4キロ

女性7.3キロ

 と次第に落ちてくる。これが病気で長期入院し、歩くのがおっくうになったりすると、わずか2~3キロにまで落ちてしまう人もいる。やはり、歩行能力は足指と深い関係がある。瓜谷教授らはデータを取りながら確信を深めていった。

 後に述べるが、足指の力はトレーニングによって復活させることもできる。それをお伝えする前に、そもそも足指が、どのような構造になっていて、どんな役割を果たしているのかを説明しておきたい。

「足の内部はとても複雑で、骨は片側で26個。そのうち足指の骨は14個あります。体全体の骨の数が約200個ですから、1割以上の骨が脚の先に集まっていることになる。その骨をふくらはぎや脛から来る外在筋、そして足裏にある内在筋といった筋肉、加えて靭帯や腱が連携するように支えているのです」

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