もし「廃藩置県」が行われなかったら… 日本の“あり得た未来”をAIに聞いてみると(古市憲寿)

  • ブックマーク

 史実では、明治維新によって強力な中央集権国家が誕生した。だが幕末の動乱が続き、もし廃藩置県が行われなかったら、日本列島内に複数の独立国家が誕生していた可能性がある。その場合、欧米列強の格好の標的となり、いくつかの地域は事実上の植民地になっていたかもしれない。

 何とか20世紀を乗り切り、EUのような日本列島国家連合が誕生していたら、どんな2026年を迎えていただろう。江戸は徳川公国として官僚主導の管理社会になり、大阪は上方商業連邦としてシンガポールのような超資本主義国家、北海道のカムイ共和国は北欧を参考にした高福祉の民主主義国家……みたいなシミュレーションをAIがしてくれた。

 昔からSFでは定番の「if」の思考実験だが、面白いと思ったのは各国の抱える課題。カムイ共和国は言論の自由が保障された民主主義国家ゆえにフェイクニュースの台頭に困っているというのだ。ロシアのプロパガンダなど認知戦が日々繰り広げられる中で、常に国民のリテラシーが問われているようだ。

「徳川公国はアメリカの植民地だ」などのネットニュースが流れたり、薩摩の大統領が賄賂を受け取っているフェイク動画が拡散されたり、といった具合だ。徳川や上方などでは報道できないスキャンダルが暴露されるが(「上方万博での工事費未払い問題」とか)、その中には本物の特ダネと敵対勢力の流したガセネタが混在している。

 だがカムイ共和国は表現規制には踏み込まない。政府が「これが事実」だと決め付けることは危険である。あらゆる権力は腐敗する可能性がある以上、フェイクかどうかを見極める主体は、あくまでも各市民であるべきだ、というのだ。

 この情報の洪水にカムイ市民はどのように対応しているのだろうか。インタビューしてみると(AIに「市民はぶっちゃけどう思っているの」と聞いた)、「『カムイ新聞』に書いてあっても信じない。徳川タイムスとBBCも観て、全部で言われていたら信じる」「激しい感情を煽るような記事はプロパガンダか詐欺広告の可能性が高いのでスルーするようにする」「本当に大事な話はスマホを持ち込めないサウナ内でする」などを実践しているらしい。

 彼らは「自由を守るためには自由を制限しないとならないのか」という民主主義のジレンマに直面している。徳川や薩摩は国家が情報統制をしてしまうので、(国から見て)フェイク情報は出回らない。だがカムイでは敵国の流す情報も、多様な意見の一つになる。さらに愛国心も希薄。国防は民間軍事会社と無人防衛システムに依存している。

 カムイ共和国は大丈夫なのか。代替の利かない技術や、名だたるIPをたくさん持つブランド力、国際紛争の仲介者として汗をかくなど「真面目でうそをつかない」国として、世界中から信頼され、共和国は何とか命脈を保っているようだ。現実の日本国はどうなっていくだろうか。2026年はまだ始まったばかり。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2026年1月15日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。