故人はなぜ彼の参列を望んだ…? 推し活仲間のオンライン葬儀で20代女性が見た異様な光景【川奈まり子の百物語】

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憧れ

「こういう出来事があったのですが、その後、社内でA子がBさんを彼の世に引っ張っていったのだと言う者が現れました。A子がBさんのことを好きだったから……というんですよ」

 インタビューのとき、佳苗さんはそう言って苦笑を漏らした。

「何かあったとは思えません。亡くなった時期だって、1年半も間が開いていますし。強いて言えばBさんはA子と私が好きだった声優さんに顔が似ていましたけど、既婚者で、うんと年上のオジサンですからね。無責任な噂ですよ」

「似ていたのなら、ちょっと憧れていたのかもしれませんね?」

「まさか、違うでしょう。A子はBさんについて私には何も言っていませんでしたから」

 そうは言っても、佳苗さんは同期の同僚で、共にB氏の部下である。かえって打ち明けられなかった可能性もあるのでは……などと考えると、B氏が語った見知らぬ葬儀告別式と彼の死を、A子の自死と結びつけたくなってしまう。

 しかし、B氏が言っていたように、同じ葬儀社が手掛けた別のオンライン葬儀の動画が一瞬紛れ込んだ可能性も完全には否定できない。

 だったらB氏については、何ら不思議な点は無いということになる。

 佳苗さんとA子の祖父母が見た黒い影の正体も判然としない。

 A子が実家にいた頃に可愛がっていたペット5匹の霊が配信された動画の中に出没したのか。

 それとも……そう、たとえば、葬儀告別式の会場に憑いている地縛霊かもしれない。

 あるいは、あれらはA子に祟っていた怨霊で、そのためA子は前触れなく自死してしまったのだ等々、いくらでも思いつけてしまう。

 佳苗さんは「サムネや待機画面がアニメキャラでBGMが声優さんの歌だったのはA子の仕業だと思います」とも話していた。

「あれは、良い想い出の記念に、A子が私にだけ見せてくれた幻だったんですよ」

 そうかもしれないが、それだって、佳苗さんがショックと悲しみのあまり幻覚を見たという解釈も成り立ってしまうのだ。

 私としては、関係者の皆さんがなるべく心穏やかに過ごせるように、それぞれに解釈されるのが良いと思うばかりである。

―――

【記事前半】では、A子との推し活の思い出やA子が受けた実家からの束縛、あまりに若く突然だった自死について語られる。

川奈まり子(かわな まりこ) 
1967年東京生まれ。作家。怪異の体験者と場所を取材し、これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集。怪談の語り部としても活動。『実話四谷怪談』(講談社)、『東京をんな語り』(角川ホラー文庫)、『八王子怪談』(竹書房怪談文庫)など著書多数。日本推理作家協会会員。怪異怪談研究会会員。2025年発売の近著は『最恐物件集 家怪』(集英社文庫8月刊/解説:神永学)、『怪談屋怪談2』(笠間書院7月刊)、『一〇八怪談 隠里』(竹書房怪談文庫6月刊)、『告白怪談 そこにいる。』(河出書房新社5月刊)、『京王沿線怪談』(共著:吉田悠軌/竹書房怪談文庫4月刊)

デイリー新潮編集部

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