故人はなぜ彼の参列を望んだ…? 推し活仲間のオンライン葬儀で20代女性が見た異様な光景【川奈まり子の百物語】

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喪主挨拶

 遺影と花が飾られた祭壇は、ごく簡素なものだった。どれほど簡素だったかといえば、佳苗さんが「もうちょっと豪華にしてあげられなかったの?」と内心不満に思ったぐらいで、白いクロスを敷いた上に葬式用の遺影にしては小さな……せいぜい四六判サイズぐらいの遺影の額を立てて、左右に菊の花束を一対飾っただけであった。

 袈裟をつけた僧侶と、葬儀社のスタッフらしい男女2名も画面の端に映っている。

 そこまでは想定内だった。

 しかし、それ以外には黒い影たちが佇んでいるばかりであった。

 黒い煙がわだかまって人間の輪郭を成している。

 そんな、よくわからないモノが5つぐらい、祭壇の横に並んでいた。

 佳苗さんは我と我が目を疑い、パソコンの画面を食い入るように見つめた。

 そこにいるはずのA子の両親と妹の姿も見当たらない。

 だが、おもむろに黒い影の1つが画面の方へ進み出てきて挨拶をしはじめた。

「本日はご多忙の中、○○A子の葬儀にオンラインにてご会葬いただきまして、誠にありがとう存じます。A子は7月〇日の朝に急逝しました。28歳という若さでした……」

 台詞こそ典型的な喪主の挨拶だ。しかし奇妙だった。

――この声! A子の声だよね!?

 全身に鳥肌が立ち、パソコンの前で思わず腰を浮かしてしまった佳苗さん。

 その前で、黒い影が粛々と、やや奇妙な言葉を続けた。

「突然のことで、きっと皆さまも信じられない思いでいらっしゃるでしょう。生前に皆さまから賜りましたご厚誼について御礼申し上げると共に、このように驚かせてしまったことを深くお詫びいたします。最期の日々は内なる衝動との闘いでした。誰のせいでもございません。しかたがなかったのだとお考えください。本日は誠にありがとうございました」

 A子自身が語っている。そう確信しつつ呆気に取られて動画を視聴するうち、佳苗さんは気がついた。

 動画配信サイトの画面上に表示された視聴者数のカウンターが「1」で止まっている。

 つまり佳苗さんしか閲覧していないということになる。

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