故人はなぜ彼の参列を望んだ…? 推し活仲間のオンライン葬儀で20代女性が見た異様な光景【川奈まり子の百物語】

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ペットのお迎え

 それから約1年が経過した2023年の7月、佳苗さんは初めてA子の墓参りをした。

 祥月命日の一週間後のことで、一周忌の香典はすでに書留で送ってあった。

 A子の実家には知らせず、東京から新幹線で北陸のA子の郷里に行くと、真っ先に墓のある寺院を訪ねた。

 すると、A子の墓の前で、オンライン葬儀の動画で見た人物に遭遇した。

 それはA子の妹で、こちらから声を掛けるまで佳苗さんが誰だかわからなかったようであった。

 あらためて挨拶を交わし、その場で立ち話をした。

 やがてオンライン動画に話題が及ぶと、A子の妹が「変なものが映っていませんでしたか?」と言ったので、佳苗さんはドキッとした。

「……変なものと言いますと……?」

「黒い影が5つぐらい映っていたようなんですよ」

 これを聞いて佳苗さんは一気に1年前に引き戻された心地がして、思わず「私も見ました!」と大声を出してしまったのだという。

「てっきり気の迷いかと思っていましたけど、本当に映っていたんですか!?」

「はい。祖父母が4人とも見たそうです。モヤモヤした黒い影が5つあって、昔、姉が可愛がっていた猫と犬も合せてちょうど5匹で、みんな寿命や病気で死んでいるので、姉を迎えに来たのだろうという意見に落ち着きました」

「……でも、人の形をしていませんでしたか?」

「はい。人間の形をしていたそうで、そこはちょっと気味が悪い感じですよね? けれども、うちには犬が2匹、猫が3匹いたので数は合っているんです。もっとも、残念ながら私と両親は見ていないんですよ。アーカイブには、そんな変わったものは何も映っていませんでしたし……」

 A子の妹は香典のお礼を丁寧に述べて、この後、用事があるからと言い訳しながら去っていった。

盛大な葬儀

 佳苗さんは、例の黒い影は幻覚ではなかったようだと考え直した。

 A子の祖父母も同じものを目撃したのだから。

 しかし、あれが犬猫だとは思いもよらなかったし、A子の妹はああ言っていたけれど、今でも頭から信じ込むことは出来ない気持ちだった。

 だいいち、黒い影が映っていた画面には、A子の家族の姿がなかったのである。

 犬を2匹と猫を3匹、かつてA子が飼っていた事実を知っている人たちが推理するのと同じ文脈には佳苗さんは乗れなかった。

 A子の死から時が経って心が平穏を取り戻すと共に、佳苗さんは上司のB氏にこの話を打ち明けたいと思うようになった。

 だが、日頃、雑談を交わすような間柄ではなく、やがて2024年の1月にB氏が50代の若さで病死してしまうと、そんな機会も永遠に失われた。

 B氏は前年の9月頃に心筋梗塞の発作で倒れ、以来、余病を併発して入院していた。

 そして、重篤な状態から抜け出せず、とうとう帰らぬ人となったのであった。

 社内で責任ある部署を任されていたほか、彼は副業でも成功していた。

 非常に顔の広い人だったので、葬儀告別式はセレモニーホールの大広間を借りて行われ、200人あまりの参列者の中に佳苗さんもいた。

 彼女が、もしや……と思ったのは、豪壮な祭壇と遺影を眺めたときだった。

 あのときB氏は、立派な祭壇と彼自身に似た男性の遺影を見たと言っていた。

 まさかとは思うが、彼は未来の自分の葬式を視聴してしまったのではあるまいか?

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