故人はなぜ彼の参列を望んだ…? 推し活仲間のオンライン葬儀で20代女性が見た異様な光景【川奈まり子の百物語】

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雨だれ

 このとき僧侶の読経が始まった。重々しい南無妙法蓮華経が寂寥感たっぷりにパソコンのスピーカーから流れだすと、画面の中の黒い人型の影たちがどよどよと体を揺らしはじめた。

 同時に、パチパチッと電気がスパークするような奇妙な音が、佳苗さんの周囲の空気を震わせた。

 部屋のどこかで鳴ったと思われるのに、辺りを見回しても変わったところは見受けられず、ただ、7月の午後3時過ぎにしては窓の外が薄暗いような……。

 と、視線を向けた窓のガラスに水滴がポツンと一滴だけ当たって、ツーッと下に流れた。それきり、雨が降り出す兆しもない。

 佳苗さんは震える手で、パソコンのブラウザをいったん落とした。

 深呼吸して気を整えた後、あらためてブラウザを立ち上げてA子のオンライン葬儀動画にアクセスすると、僧侶が読経を終えるところだった。

 式場のようす、遺影、花の祭壇、僧侶やスタッフは、先ほどの中継画面に映っていたのと寸分違わなかったが、今度は、喪服を着た年輩の男女と、20代の女性がいた。

 彼らはA子の家族であろう。

 カウンターに表示されている視聴者数は約6名。妥当な人数だ。A子の父母両方の祖父母とB氏と佳苗さん自身、合わせて6名が視聴しているわけだから。

 その後は何事もなかった。拾骨は動画配信しないそうなので、僧侶による読経に続いて故人を悼む説法が行われ、締め括りに喪主がオンライン葬儀を視聴している人々へ向けて再び挨拶をして、終了した。

 あっけないものだと思いつつ、佳苗さんはブラウザを閉じた。

――人の形をした黒い影が5つぐらいあったが、あれは何だったのか?

――それにまた、そのうち1つがA子の声で最初の挨拶をしたのは……?

 混乱して頭を抱えていたら、オンライン葬儀に参加していた上司のB氏からLINEメッセージが届いた。

「おつかれさま。今、電話で話せますか」

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