コオロギ食ブームではバッシングも…信州“昆虫食の聖地”に残る食文化 カイコ入りポップコーン、蜂の子フィナンシェに見る「受け継がれる伝統」

ライフ

  • ブックマーク

地方新聞社が続ける理由

 今回のイベントの後援企業・信濃毎日新聞社が2022年に立ち上げた「昆虫みらいプロジェクト」という試みがある。将来の食料不足を見据えつつ、信州の食文化として昆虫食を残そうとするものだ。

 長野県の中央部に位置する岡谷市は、かつて製糸業で栄えた街。蚕はこの土地の歴史そのものでもあるが、このプロジェクトでは、比較的知られた調理法である「佃煮」にとどまらない、現代の食文化に合わせた形でその魅力を伝えようと、昆虫食ブランド「PICO SALVATORE(ピコ・サルヴァトーレ)」を立ち上げた。ピコが1兆分の1(極小)、サルヴァトーレが救世主。「小さな救世主」という意味でつけられている。

 TBSの番組「クレイジージャーニー」にも出演した“アマゾンの料理人”太田哲雄シェフと組み、信州食材と昆虫を掛け合わせた料理を軽井沢のレストランで提供。また、イナゴやコオロギ入りのチョコレート、シルクパウダー入りクッキー、蜂の子入りフィナンシェなどユニークな新商品も生まれた。

 2025年には「カイコ×ジビエ」をテーマにした体験型ツアーを開催。岡谷蚕糸博物館の見学や繭を使ってミサンガなどを作るシルククラフト体験の後、蚕食品と鹿肉のバーベキューを楽しむ、といった内容だ。外国人観光客の参加も多く、反応は上々だった。

「昆虫食だけ、にしないことがポイントなんです」(白井氏)

 鹿肉、地酒、クラフトビール……地元のおいしい食材と合わせることで、昆虫は特別すぎない存在になる。

 また、昆虫食に興味がある若い世代によって「セミの幼虫の生春巻き」「ザザムシとブロッコリーのフリッター」「乾燥スズメバチのマシュマロチョコサンド」など、エスニックや洋風の味付けのチャレンジメニューも開発されている。

冬の滋養として

 昆虫は、無理に食べるものでもない。環境や健康のために押し付ける必要もないし、苦手でも当然だ。筆者自身、ザザムシや蚕の蛹はいまも得意とは言えない。

 ただ取材を通じて分かったのは、昆虫食は「未来食」ではなく、ずっと続いてきた「伝統食」だということ。

 背景を知ったうえでなら、「一度くらい、試してみようかな」と思ってもらえるかもしれない。

「一時期はコオロギ給食の影響で、昆虫食そのものに対してのバッシングもありました。だが今、ガストロノミーツアーには外国人観光客が訪れ、昆虫を使った商品は再び売れ始めています。昆虫食の今後に期待したい」(前出・白井氏)

「未来食」ではなく、冬の滋養として「アリ」かもね。

取材・文/安川ヤス子
長野県佐久市出身。好きな虫はイナゴ、蜂の子。女性誌、ファッション誌を中心に執筆。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。