コオロギ食ブームではバッシングも…信州“昆虫食の聖地”に残る食文化 カイコ入りポップコーン、蜂の子フィナンシェに見る「受け継がれる伝統」
長野で昆虫は「滋養」だった
かつて長野では、こうした昆虫食は特別なものではなかった。
今回のイベントを後援する信濃毎日新聞社・ビジネス開発部次長の白井政孝氏によると、長野県内の道の駅には「昆虫を食べていた世代」である県内外のシニア層が、イナゴや蜂の子の佃煮などを買いに訪れるという。
近年、多く販売されているのはメジャーなその佃煮2種類だが、他にもカイコ、ザザムシのパック詰めや瓶詰、スズメバチ成虫の瓶詰、ハチの巣パック詰めやミツバチ入りせんべい、イナゴジェラートなどなど、長野の道の駅らしいラインナップがあるそう。
40代なかばの白井氏にも、やはり長野っ子ならではの経験がある。
「小学生のころはイナゴの調理実習がありました。またカイコを育てる家も多かった記憶があります」(白井氏)
現在40~50代、「昭和の子」だった白井氏や筆者にとってイナゴや蜂の子は、前述のとおり、家の食卓に並ぶ身近な食べものだった。だがやがて、農薬の使用などによりイナゴの数は激減。カイコを育てる家庭も徐々に少なくなっていった。蜂の子も採取が難しくなり、昆虫食は次第に高級品となる。結果として、若い世代が昆虫に触れる機会がなくなってしまった。
最近では、県外から来た若者が、“罰ゲーム感覚”で道の駅に食用昆虫を買いに来るのだという。それをどういった気持ちで見つめているのかを白井氏に尋ねると……。
「それは全然OKです(笑)。長野で食べられる虫に親しむきっかけになれば」
長野県のように昆虫食文化を推す自治体は珍しい。いつのまに長野だけが昆虫食の聖地のようになったのだろう。米どころならイナゴを食べるだろうし、たしか沖縄ではセミを食べる文化があったはず。もっと当たり前に昆虫食が社会に認められてもいいのでは……。
しかし、昆虫食が社会の“話題”になったときの反応を思いだすと、それは難しいのかもしれない。
大炎上のコオロギ騒動
2023年、徳島県の高校でコオロギパウダーを使った給食が提供されたと報じられると、ネット上には賛否が噴出した。
「食料問題を考えるきっかけになる」「環境に優しいタンパク源だ」という肯定的な声がある一方、安全性やアレルギーへの不安も強く、批判は大きく広がった。
その後、昆虫食ベンチャーや大手企業のコオロギ養殖事業撤退が相次ぎ、「未来食」と呼ばれた昆虫普及の機運は、一気にしぼんでしまった。こうした反応の背景には、食料問題がまだ自分ごととして受け止められていない現実や、食品衛生基準の未整備があると白井氏は指摘する。
バッタのように一足飛びに定着させようとしても、社会は追いつかない。
それでも、昆虫食が「健康的でおいしい」を新しい形で提案する人たちがいる。
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