コカイン逮捕、長男の過失致死事件…「世界のクロサワ」との衝突で運命が暗転した「勝新太郎」波乱の役者人生
「戦場のメリークリスマス」にも出演できず
さらに、ほぼ同時期に大島渚監督から、「戦場のメリークリスマス」のハラ軍曹役をオファーされたが、これも勝の思惑を裏切ることになった。勝は引き受けるにあたり脚本の変更を求め、大島も一旦はそれを了承したが、結果的にプロデューサーとの契約の関係でその願いが叶えられなかったため、このオファーを辞退せざるをえなくなった。最終的にハラ軍曹役には、ビートたけし(北野武)がキャスティングされたことはよく知られている。
不幸な出来事はこれで終わらない。1988年には、勝自ら製作・監督・脚本・主演を担う新作「座頭市」(勝製作による最後の映画)の撮影に取りかかるが、この映画でデビューすることになっていた長男・雄大が殺陣のリハーサル中、斬られ役の役者を真剣で斬りつけて死亡させる事件が起こってしまった(同年12月26日)。
続いて1990年1月16日、勝はホノルル国際空港で下着にマリファナとコカインを隠していたとして逮捕される。事件後、「気づいたら入っていた」「今後は同様の事件を起こさないよう、もうパンツをはかない」などとマスメディア相手に釈明し、世間を騒然とさせた。しかもその翌年、日本でも麻薬取締法違反の容疑で逮捕され、懲役2年6か月執行猶予4年の有罪判決を受けている。
1996年7月には下咽頭癌を発病し、抗癌剤治療と放射線治療に専念するが、入院中も外出して禁酒・禁煙という医師の指示には従わなかった。病状が落ち着いた4か月後の記者会見でも「煙草はやめた」と言いながら堂々と喫煙してみせた。そうした姿は一部では喝采を浴びたものの、彼をメインストリームから遠ざける要因となったのかもしれない。
一方の黒澤は、「影武者」後、「乱」「夢」「八月の狂詩曲」「まあだだよ」と四作を発表する。いずれも商業的な成功を収めたとは言い難いものの、世界中の映画関係者が影響を公言したことなども手伝い、「世界のクロサワ」としての地位が揺らぐことはなかった。
第1回【「銀幕の大スター」と「世界的監督」が撮影直後に“激突”…故・仲代達矢さんの代表作になった「影武者」をめぐる騒動とは】では、銀幕の“天皇”と“風雲児”との確執の原点に迫っている。
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