娘が連れてきた婚約者が「まさか」 罪の連鎖? 神のいたずら? 52歳父が凍りついた“再会”
待ち合わせ場所に現れたのは…
それにしても、もしその男性が結香さんの元夫だとしたら、結香さんはいつ離婚したのか、そして今どうしているのか。想像が想像を呼んで、利弘さんはどんどん苦しくなっていった。
「数日後、娘がホテルのティールームを指定してきました。正直言って足が震えましたね。近づいていくと娘が見えた。こちらに横顔を見せている男は、やはりどう見ても結香の元夫でした。10年前に短時間会ったきりだから、顔ははっきり覚えていなかったけど、横顔を見た瞬間、思い出しました」
彼が振り向いた。その表情が固まった。離婚の原因となった妻の浮気相手の娘と、自分が一緒になろうとしていることを瞬時に理解した顔だった。
「困りました」「申し訳ない」
お互いに大人だから、当たり障りのない挨拶を交わしたが、利弘さんはどういう言葉を発したらいいかわからなかった。相手もそうだったのだろう。
「ふたりとも固まらないでよと娘が笑ってとりなそうとしたけど、僕たちは表情を動かすことさえできなかった。お互いの気持ちが通い合っているのがよくわかりました。ここは娘を遠ざけるしかないかと思ったとき、たまたま娘の携帯が鳴った。娘は電話を受けながら立ち上がって歩いていきました。その瞬間、僕らは顔を近づけ合って『困りました』『申し訳ない、知らなかった』と言葉を交わした……。離婚したんですねと言うと、やり直そうとがんばったけど無理だったと彼が言って。結香さんはどうしているんですかと尋ねたら、『子どもたちとは会っています。元気ですよ』って。彼の目が潤んでいるのがわかりました。彼もつらかったんでしょう。申し訳ないと僕は言うしかなかった」
どうしたらいいんだろうと利弘さんはつぶやいた。彼は「娘さんとは別れます」とつぶやいた。その程度にしか娘を思ってくれなかったんですかと利弘さんは言った。だけど、と彼が言う。それもそうだけど、と利弘さん。結局、ほとんど会話は成立しなかった。お互いに相手の気持ちがわかるだけに、落としどころが見つからない。
「とにかくいったん冷静になる時間をとりましょう。また近々ということで、娘が戻ってきたところで、『急な仕事が入ってね、申し訳ないけど、日時を改めてまた』と伝えました。彼とは名刺を交換したので携帯電話の番号もわかった。ふたりだけで話そうと思いました」
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