娘が連れてきた婚約者が「まさか」 罪の連鎖? 神のいたずら? 52歳父が凍りついた“再会”
それから10年――
それから10年、いろいろなことはあったが、子どもたちの成長が夫婦をつなぎとめた。
「料理を手伝っていた息子は、立派に料理人への道を歩んでいます。娘は大学4年生。就職活動をしている様子がなかったから、どうするつもりなのかと思っていたんですが、なんと娘は大学を卒業したら結婚すると言いだして……。それが今年の夏のことです」
ある日、帰宅したら妻と娘が揉めていた。ふたりが言い争いをするのは珍しかったから、利弘さんは止めに入った。
「この子、結婚するっていうのよと妻がキリキリしている。大学を出てそのまま結婚というのは、もったいないといえばいえるけど、娘の人生は娘のもの。それもしかたがないだろうと僕は言いました。すると麻美は『相手の男は50歳だってよ』と。それはさすがに聞き捨てならなかった。どういうことなんだと言うと、娘は『愛しているの。だから一緒になりたいの』と。バツイチだけどそれは何の障害にもならない。愛はすべてを越えると娘はうわごとのように言い続けている。なんだこれは、と体が震える思いでした。自分と同世代の男と娘が結婚するなんて、やはりショックですよ」
私は家を出て彼のところに行くからと娘は言う。いや、結婚するならちゃんと手続きを踏めと彼は娘を押しとどめた。
「手続きって何よと言う娘に、大事に育てた娘と一緒になりたいならきちんと挨拶に来いということだ。やましいところがないなら来られるだろうと言ってやりました。相手のことをもっと知りたいと言ったら、娘が『50歳、バツイチ、子どもは19歳と16歳。彼が一緒に暮らしている。離婚原因は妻の浮気』って」
そんなことがあるはずはない…
時間が一気に遡った。10年前、結香の子どもはいくつだったか……。とはいえ、まさかそんなことがあるはずはない。利弘さんは自分の早合点を笑おうとした。だが、信じられないような偶然はなきにしもあらずである。嫌な予感がした。胸が妙に痛んだ。
「そもそもどこで知り合ったんだと聞いたら、アルバイト先の社長だという。結香の夫は会社員だったはず。きっと違う、違うに決まってる。そう思いながらも嫌な予感はどんどん大きくなっていく。体が折れそうなほど痛かった」
おかあさんは平常心じゃないから、おとうさん、彼と会ってくれないかなと娘は言った。実はおとうさんも平常心ではなかったのだが、娘にはそこまで読めなかっただろう。
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