娘が連れてきた婚約者が「まさか」 罪の連鎖? 神のいたずら? 52歳父が凍りついた“再会”

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【前後編の後編/前編を読む】最愛の母の死に、妻は寄り添ってくれなかった…似た傷を抱えた人妻に“共鳴”してしまった52歳夫の告白

 沼沢利弘さん(52歳・仮名=以下同)は、27歳のときに学生時代の同級生だった麻美さんと結婚した。一男一女に恵まれた「楽しい家庭」を目指したが、40歳を迎えた頃、利弘さんに魔が差す。きっかけは、女手ひとつで育ててくれた母が突然亡くなったことだった。かねてより母と折り合いが悪かった麻美さんは、葬儀の時も利弘さんに寄り添ってはくれなかったという。そんな心の隙間に入り込んできたのが、当時7歳と4歳の子の母である結香さんだった。妹を事故で亡くした彼女もまた、夫や義母が気持ちを理解してくれないことに不満を抱いていた。

 ***

 既婚の男女が関係をもつ。それもひとつの恋ではあるが、互いのパートナーや「世間」は当然、許してはくれない。それがわかっているから、ふたりは密かに会う。秘密があればあるほど関係は濃厚になり、離れがたくなっていく。

「会いたいときに会えるわけではない。いつもこれが最後だと思いながら会うから燃えてしまう。燃えるからまた会いたくなる。制約があるから罪悪感が募り、罪悪感があるから恋の密度が高くなったと錯覚する。生活をともにしているわけではないから、お互いのいいところしか見えない。不倫の恋は魔物みたいなものですよね。今だからそう思えるけど、当時は本当に必死だった。結香に会いたい。いつでもそう思っていた」

 そう利弘さんは振り返るが、楽しいだけの恋より、苦しみに満ちた恋のほうがささやかな楽しさが、とんでもない幸福感をともなうものなのだろう。

「それでも恋はほんの少しずつ、気づかないくらい少しずつ温度が落ちていく。結香との関係が2年近くたったとき、このあたりが潮時だろうと思いました。僕はすでに平熱に戻っていたんでしょうね」

 滞りない日常生活に戻りたくなった利弘さんと、まだ熱に浮かされていたい結香さんの間に亀裂が走った。人生に思いがけなく訪れた、極上の恋を、極上のまま終わらせたかったが、彼女はそれを拒否した。

「最後はお願いするしかなかった。お互いに日常をもう一度生きよう。縁があればまた会える。それは運に賭けよう。きれいに別れるのも大人の恋だと僕は彼女を突っぱねた」

 これ以上、揉めたくなかった。くずおれて泣く彼女を振り返ることもなく、彼は去ったという。

勤務先への突然の訪問者

 1ヶ月ほどたったころ、彼は勤務先で、結香の夫だと名乗る男性の訪問を受けた。

「あわてて会社近くの喫茶店に連れていきました。認めるべきかどうか考えたけど、ここはやはり認めてはいけないと思った。だから『確かに彼女とは病院で知り合って、お互いの悲しみを癒やすためにときどき会った』ということだけは認めましたが、男女関係は否定しました。夫は『わかりました』と言って去っていった。それで終わったと思っていたんですよ」

 妻の麻美さんにバレずにすんだ。それがいちばんホッとしたと彼は本音を洩らした。母の死でぎくしゃくはしたが、それでも彼は離婚する気などなかったし、なにより子どもたちとの時間を失いたくなかった。

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