「水戸黄門」「大岡越前」はなぜ“基本的に人の命を奪わない”のか 殺陣師・斬られ役のレジェンド4人が語った「テレビ時代劇」秘話【追悼・菅原俊夫氏】

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スタッフが時代劇を知らな過ぎる

〈お茶の間を楽しませてきたそんな娯楽時代劇が、今、大きな危機を迎えているのは、なぜなのか?〉

菅原:結局は粗製乱造したのが、時代劇の命取りになったんですよ。キャストや脚本、演出を吟味している時間が無いんです。この役はどうしてもこの俳優さんでと思ったら、映画ならその俳優さんのスケジュールに合わせるけど、テレビは時間の制約がある。京都撮影所の誰もが「うわー、この役をあの人が?」と驚くようなキャスティングが罷り通っていましたね。

上野:京都贔屓をするわけじゃないけど、特に東京の小さなプロダクションが無茶苦茶やっていたね。スタッフが時代劇を知らな過ぎる。「匕首(あいくち)」を知らない小道具さんがいたり。小林旭さんがピンクの裃(かみしも)を着けたり、着流しに白足袋という有り得ない組み合わせで登場するドラマもあった。もうビックリしたわ。

福本:最近は現代劇で売れた若い俳優さんとかタレントさんが、時代劇に来て主演を張るわけですよ。刀を持ったこともない人が1~2日、殺陣師の特訓を受けただけで立ち回りの現場に出ることさえある。それで良いものが出来るわけがないんです。

舐めたらあかんぜ、時代劇を

上野:昔は時代劇のスターを育てるのに、1~3カ月間、毎日道場で稽古したもんですよ。足腰立たんようになるまでね。

福本:松平健さんだって、「暴れん坊将軍」の前に1カ月、この京都撮影所で稽古していましたね。

上野:山田五十鈴さんも、薙刀のシーンがあるからと、出番の1週間も前から撮影所の道場に来て稽古していた。薙刀は何度も経験していたが「しばらくやってないから」と。僕も撮影の合間を縫って、お付き合いしました。やっぱりスターになる人は違いますね。でも、試写を見たら、そのシーンはカットされていた(笑)。

笹木:今でも主役は自分の作品やから、稽古も含めて、それなりの気持ちで臨んでいるんですよ。でも、レギュラーに入ってる若い連中で、そういう気持ちを持っている人が非常に少ない。

菅原:それでも立ち回りが成立しているのは、東映剣会(つるぎかい)の福本さんや笹木さんのようなベテランの斬られ役がいるからこそ。それが、斬る方も、斬られる方も下手くそでは、絵にも様にもならない。これは本当に声を大にして言いたい。舐めたらあかんぜ、時代劇を。

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「カッコつけてるだけだろうと思ったが」――。第2回【「片岡千恵蔵の殺陣は刀で相手を本当に叩く」「最初は死体役」 殺陣師・斬られ役のレジェンド4人が語った「昭和の時代劇」驚愕の撮影現場】では、「舐めたらあかんぜ、時代劇を」と言い放った菅原氏が思わずうなった当時の若手タレントや、令和の今なら炎上必至の撮影現場などについて語っている。

デイリー新潮編集部

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