「水戸黄門」「大岡越前」はなぜ“基本的に人の命を奪わない”のか 殺陣師・斬られ役のレジェンド4人が語った「テレビ時代劇」秘話【追悼・菅原俊夫氏】

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ナショナル劇場の時代劇はなぜ“峰打ち”

〈斬られた回数は生涯で2万回以上という笹木さん、福本さん。1227回続いた「水戸黄門」でも斬られに斬られてきた〉

福本:斬られたといっても、「水戸黄門」では、みんな“峰打ち”。これが一番の悩みのタネでした。

菅原:そう。(スポンサー・松下電器の)松下幸之助先生の、ナショナルが続く限り黄門様一行の世直し旅も続く、人は殺さず、できるかぎり更生させるようにとの強いお達しから、ナショナル劇場の時代劇では「大岡越前」も「江戸を斬る」も基本的に人を殺さない、特に主役はね。誰が見ても極悪非道で更生のしようがない奴を、やむなく斬る。それもせいぜい何十話に1回ですよ。

福本:作り手はそれだけ気を遣って峰打ちにしているんだけれども、視聴者は「斬った」「斬られた」としか見てくれない。峰打ちをリアルに演じるなら「あ、痛っ」で済む話ですよ。でも、「アイタッ」「アイタッ」ばかりじゃ、観ているほうが「何やねん、この立ち回りは」となる。だから割り切って、「ウワーッ」と叫んで派手に倒れたり、工夫はしたけどね。助さん格さんもポンと当てるだけで、斬る時のように刀を引かないから、アクションも単調になってしまう。絵にならんわけですよ。

「関わりの無い者」が皆逃げてしまう

菅原:福ちゃんが言うように、観る方は溜飲が下がらないんですよね。極悪非道な奴をぶった斬るのが時代劇の醍醐味ですから。

笹木:だから、僕なんかは、峰打ちでも、どちらかと言えば斬られた感じで演技してましたね。

福本:里見さんの「長七郎(江戸日記)」シリーズでも、一時、「関わり無き者は去れ」と言って、悪い奴だけ斬る脚本もあったんです。でも、「関わりの無い者」が皆逃げてしまうと、絵にならんのですよ、やっぱり。

上野:残るのは3、4人だからね。それこそ、溜飲が下がらなかった。

笹木:僕が思うに、今の2時間サスペンスのほうが、殺し方はエグイですよ。刺して、どついて、血を流す。

福本:だからテレビの時代劇は“娯楽時代劇”言うんですよ。斬られても血は出てないし、衣装も切れてない。それを大前提に、観る方も楽しんでいるわけ。

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