「水戸黄門」「大岡越前」はなぜ“基本的に人の命を奪わない”のか 殺陣師・斬られ役のレジェンド4人が語った「テレビ時代劇」秘話【追悼・菅原俊夫氏】
太秦で語り合ったレジェンド4人衆
大ヒットした映画「侍タイムスリッパー」や、海外でも高評価を受けたドラマ「SHOGUN 将軍」「イクサガミ」など、近年は話題作が豊富な日本の時代劇。ジャンルとしての時代劇が再び勢いを得ている中、2025年8月31日、1人の殺陣師がこの世を去った。テレビ時代劇や映画、舞台でも活躍した菅原俊夫氏(享年84)である。
かつてのテレビ時代劇は、勧善懲悪の物語に独特のアクセントを加え、俳優陣を輝かせる日本刀での殺陣シーンこそ要であった。「SHOGUN 将軍」の真田広之が、若き日にその現場で腕を磨いたことは言うまでもない。「侍タイムスリッパー」もまた、テレビ時代劇の普遍的な魅力を描き、幅広い世代から支持を得た。
菅原氏をはじめとする殺陣師・斬られ役は、時代劇の栄枯盛衰を現場で見続ける立場にありながら、その発言が表に出る機会はさほど多くはなかった。しかし、里見浩太朗版「水戸黄門」が終了し、民放地上波の時代劇が“絶滅危機”に瀕した2011年師走、殺陣のレジェンド4人衆は京都・太秦で時代劇について大いに語り合っていた。
その顔触れは、菅原氏と殺陣師の上野隆三氏(2020年1月19日死去・享年82)、斬られ役の笹木俊志氏と福本清三氏(2021年1月1日死去・享年77)。菅原氏の追悼として、「週刊新潮」のバックナンバーから貴重な座談会を再掲する。
(全2回の第1回:以下、「週刊新潮」2012年1月5・12日号「『時代劇』の絶滅危機に『斬られ役』『殺陣師』座談会」を再編集しました。文中の年齢等は掲載当時のものです)
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【写真】「里見浩太朗」が激励に! 「聖地・太秦」で時代劇を語り合ったレジェンド4人衆
最初は驚いた「東野英治郎の黄門さん」
〈京都太秦の東映京都撮影所。師走の一日、その一室に、半世紀に亘り日本の時代劇を陰で支えてきた4人が集った。殺陣師・上野隆三(74)、菅原俊夫(70)。斬られ役・笹木俊志(70)、福本清三(68)。座談会は、全員が深く関わった「水戸黄門」の思い出から始まった〉
上野:放送開始の前年、昭和43年の9月頃に、山内鉄也監督から「一緒にやってくれないか」と頼まれた。それが僕と「水戸黄門」との出会いでした。「黄門さんは誰?」と聞いたら「東野英治郎さん」と言うから、「えっ!」と聞き返しちゃった。夏ミカンみたいなお顔だし、「七人の侍」の盗人とか悪ばっかりやっておられたからね。
でも、始めてみたら楽しい黄門さんでした。一番驚いたのが、煙管(キセル)に刻み煙草を詰め直すシーン。掌の上に熱い火種をポンと出し、それを転がしながら煙草を詰め、それにまた火をつける。凄いなあ、これが本当の庶民の黄門さんだ、と。それを見ただけでノリましたね。後で小道具さんに煙管を借りて試したら火傷したけど(笑)。
菅原:俺もやってみたけど、とても転がせなかったね。
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