福岡の炭坑町で生まれた「銘菓ひよ子」が“東京土産”と呼ばれる理由 誰もが知る「おみやげ」の知られざるウラ話

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「うなぎパイ」と「白い恋人」の意外な歴史

 関東圏以外のお土産はどうか?

 2024年7月より、静岡で劇団四季のミュージカル「キャッツ」が上演された。同演目はホール全体を猫の世界と見たて、客席周囲に(猫目線に合わせ)数々の巨大なゴミのオブジェが設置されるのだが、そのうち一つに、ある菓子の箱と包装紙のオブジェがあった。

「うなぎパイ」――まさしく静岡を代表する銘菓と言えば、“夜のお菓子”、「うなぎパイ」(春華堂)だ。こちらは、歴代銘菓の中でも、後述する起死回生の逸話を持つことでも知られ、1961年の発売までは、試行錯誤の連続だった。浜名湖名産のうなぎを何とかパイにしようと、そのエキスを粉末にして練り込むところまでは良かったが、いざ、うなぎの頭を模そうと先をひねって焼くと元に戻ったり、ならばカバ焼き風にと串に刺して焼くと、串が抜けなくなったり……。

 苦心惨憺の末、浜名湖をイメージした爽やかなブルーの包装でようやく発売されるが、さっぱり売れず。さらに、“夜のお菓子”というキャッチフレーズが、一人歩きし始めた。この惹句は、「一日を終えた夜の団欒に、家族でつまんで欲しい」という意味だったのだが、色っぽい意味に捉えられてしまったのだ。

 そこでこの風評を逆手にとり、パッケージを当時のスタミナドリンクによく用いられた赤と黒と黄色を使ったものに替えてみた。すると、売上が大幅増。東海道新幹線の開業(1964年)もあいまって、発売翌年の1962年に60万枚だった生産数は、1966年には700万枚以上に跳ね上がった。実際、商品に塗るタレにはニンニクエキスも入っており、ウナギエキスと併せ、元気に作用するのも間違いはなかった。

 現在は高級ブランデー入りの“真夜中のお菓子”「うなぎパイ V.S.O.P.」や、“昼のお菓子”「しらすパイ」も売る春華堂だが、あくまで中心はオリジナルの「うなぎパイ」。2005年にはその製造工程を間近に見学できる施設「うなぎパイファクトリー」も開業。働くうなぎパイ職人たちは下から「錬士」「範士」「宗家」「師範」と4段階に分けられ(※2014年より)、その作製には技術的にも高いレベルが要求されることを示している。なお、最後にパイに塗布する秘伝のタレの製法は、社内でも数人しか知らないとか。

 パッケージで大躍進したのが「うなぎパイ」なら、その商品名から忘れ得ぬインパクトを残したのが、北海道銘菓「白い恋人」(石屋製菓)だろう。

 1976年、菓子業界で流行の兆しがあったホワイトチョコレートを用いた土産菓子として開発されたが、同年12月の発売をメドにしつつ、ネーミングが決まらない。「ツンドラ」「ブリザード」「冬将軍」など候補を幾つも挙げたが、いわゆる冬を思わせる用語はほぼ全て商標として登録済みだったのである。そこに創業者の石水幸安が趣味の歩くスキーから帰って来て、玄関先でこう告げた。

「白い恋人たち(雪)が降って来たよ」

 フランスで開かれた冬季オリンピックの記録映画「白い恋人たち」(1968年)の記憶も創業者にはあったようだが、2代目社長である息子の勲は思わず、「オヤジ、それだ!」と叫んでいたという。商品名はこちらに決定し、翌年には全日空のキャンペーン「でっかいどお。北海道」に売り込み、その機内食として2週間提供される。すると口コミでその美味しさが広がり、人気となった。

 特長は、原則として、北海道以外では売らないこと(※各地の空港や基幹駅などでの例外はあり)。こうなると逆に道外での人気が高まり、北海道を訪れる観光客が次々に買い求めるビッグヒットとなったのである。

 危機に陥ったのは2007年、「白い恋人たち」の賞味期限改ざんが発覚し、勲は社長を辞任。製造年月日や賞味期限を個包装に印字するなど、製造ラインを一新させつつ、3ヵ月間、本社も自主休業した。迎えた販売再開の日。千歳空港に降り立つ観光客を待っていた関係者が観たのは、空港の外に既に出来ていた行列だった。地元、北海道の人々が「白い恋人」を買うために待っていたのだ。買う人たちから「頑張って」と声をかけられ、本州に向かうビジネスマンは、「たくさん宣伝して来るからね」と大量に買い込んでくれた。この日から半年近く、デパートを含むどの店舗でも即日完売が続いた。道民の「白い恋人」に寄せる思いの表れだった。石屋製菓の現在のHPには、以下の言葉が掲載されている。

〈「100年先も、北海道に愛される会社へ」という長期ビジョンの達成に向け、北海道に貢献してまいります〉

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