投票拡大のため空爆、SNS批判で懲役7年、拒否なら資産没収… やりたい放題の総選挙にミャンマー国民の絶望

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 2021年の国軍クーデター後、初の総選挙が行われるミャンマー。だが、国民弾圧の様子が伝わってくるこの国では、やはりというべきか、公正・公平な選挙が行われるわけではないようだ。それどころか、にわかに信じがたい事態まで起きているという。旅行作家の下川裕治氏がレポートする。

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「結果がわかっている選挙のために、どれだけ苦しまなくちゃいけないんだ」

 ミャンマーのヤンゴンで働くMさん(38)は搾りだすように言葉をつづけた。

 ミャンマーは2025年の12月28日に総選挙を行う。その日程が発表されたのが8月18日。その前後から、全国規模で空爆が激しくなった。民主派の独立系メディア「イラワジ」によると、選挙日程発表から9月25日までの間に、約100人の市民が空爆の犠牲になっている。

 選挙のための空爆……。実は12月28日の総選挙というのは、1回目の総選挙にすぎない。軍事政権は今回、全国330郡区のうち102郡区で選挙を実施。2026年1月11日に、100郡区で2回目の選挙を行うと発表している。総選挙を段階的に行うという変則選挙である。

「選挙のための空爆」とは

 2021年2月、ミャンマーの国軍はクーデターを起こした。しかしその後、民主派や少数民族軍の激しい抵抗に遭い、ミャンマーは内戦状態に陥った。1回目の総選挙が全国郡区の3分の1ほどのエリアでしか実施できないということは、それ以外のエリアは国軍の支配が及んでいないことを示していた。選挙を行うための行政官を送り込むこともできないのだ。2回目以降の選挙可能エリアを増やすための空爆だった。

 民主派の武装組織であるPDF(国民防衛軍)や少数民族軍の資金力は乏しいが士気は高い。地上戦では優位に立つことが多い。対して国軍は中国とロシアの援助を受け、制空権は握っている。国軍は抵抗勢力エリアに激しい空爆を加え、その後で地上軍を投入させる作戦しかない。そのたびに市民が犠牲になる。

 冒頭で紹介したMさんはザガイン管区(マンダレーの北西、チンドウィン川流域)の出身だ。ミャンマーのなかでも国軍への抵抗が激しいエリアとして知られる。9月7日から9日にかけ、国軍はザガイン管区南部に激しい空爆を加えた。7日には10人、9日には子供を含む4人が犠牲になった。9日の空爆で犠牲になった4人はMさんの親戚だった。やりきれない思いが募った。

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