投票拡大のため空爆、SNS批判で懲役7年、拒否なら資産没収… やりたい放題の総選挙にミャンマー国民の絶望

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出馬政党52党、すべて国軍系

 国軍は2020年に行われた総選挙に不正があったと主張してクーデターを起こした。そして総選挙で圧勝したアウンサンスー・チー氏が率いるNLD(国民民主連盟)に弾圧を加える。アウンサンスー・チー氏やウィンミン大統領ら、NLDの幹部の大多数を逮捕する。NLDの集計では、クーデターから11か月の間に、メンバーのうち649人を拉致し、そのうち14人を殺害した。同時にNLDの事務所を86回襲撃し、77人の党員の家をバリケードで封鎖した。2023年3月の時点では、党員1,232人が投獄され、そのうち84人が拘留中に獄死している。そしてNLDは解党に追い込まれていく。

 国軍はさらに総選挙に参加できる政党を限定していく。その結果、今回の総選挙に名乗りを挙げたのは、全国規模で9党、州や管区など地域に限定した52党で、そのうち、国軍系ではないのは、1党にすぎない。その1党も国軍系だけが立候補することへの批判をかわすための党といわれ、民主派からは裏切者扱いされている。つまり投票できる政党はすべて国軍系なのだ。なかでも国軍系のUSDP(連邦団結発展党)の勝利は濃厚といわれる。

投票“強制”の市民への圧力

 市民の選挙への関心は薄かった。立候補政党は軍系で染まっているから結果はすでにわかっている。民主派は選挙ボイコットを呼びかけていた。ヤンゴンでは、選挙を仕切る行政事務所が爆破され、行政職員が襲われる事件も起きた。投票に行くこと自体、危険だった。

 そのなかで、国軍は選挙スタイルに手をつけはじめる。まず電子投票になることが発表された。投票所には端末が設置され、政党のボタンを押す方法である。これによって投票を拒んだ市民がわかりやすくなることで圧力をかける狙いがあるといわれる。得票数の操作も簡単になる。

 選挙妨害法も7月に導入された。フェイスブックに選挙への批判を投稿した男性が逮捕され、7年の懲役刑が課せられた。11月の時点での逮捕者は94人にのぼっている。選挙PR番組への出演を拒んだタレントも拘束されている。

 しかし市民が怖れているのは、投票を拒んだときの国軍の報復だった。投票は出身地で行われる。国軍は帰郷を強要している。だがその多くの場所で戦闘が繰り返されている。そこから避難している国内難民は300万人をはるかに超えているといわれる。しかしそんな人々に対し、投票しなければ土地や家屋を没収するとまでいっている。戦闘が激しい一帯に住む人は補助金を受けとっているが、それも打ち切るという。

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