「勝ち組」「教員」の親ほど中学受験で暴走する… 現場で見た“教育虐待”の典型4パターン

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4つのタイプと「よく言うセリフ」

・キャリア取り戻し型

 親が子供によく言うセリフ→「こんな成績で恥ずかしくないの!」

 親の中には、結婚・出産に当たって自分の社会人としてのキャリアを捨てざるをえなかった人もいる。そういう親は、これまでキャリアに注いできた情熱を、子供の教育に注ぐことがある。エリート社員の代わりに、エリート親になることを目指すのだ。

 彼らにとって、わが子の受験の成功は、“優秀な親”の証明書だ。逆に言えば、受験に失敗すれば“ダメ親”になり下がる。

 こう考える親は自分のプライドを守るために高い理想を押し付けているだけなので、思い通りにいかなければ逆上する。彼らが言う「このままで恥ずかしくないの!」は、自分が恥ずかしいということなのである。

・自己実現型

 親が子供によく言うセリフ。→「ここで人生決まるからね!」

 現在の親世代は、バブル崩壊後の「失われた30年」の中で様々な不条理を経験してきた人たちが多い。一流企業に就職できた人は「勝ち組」と呼ばれ、そうでない人は「負け組」と呼ばれてきた。

 こうした中で、「勝ち組」の親は、自分の子が社会の上層にいられるために、なんとしても高学歴をつけさせて成功への道をたどってもらいたいと切望する。他方、「負け組」の親は、自分のような厳しい人生を歩んでほしくないという思いで高学歴を求める。

 近年は昔ほど学歴が重視されていないし、立教大や法政大などなら中学受験で入るより大学受験で入った方がずっと短い勉強時間で合格を勝ち取れる。そもそも人生は学歴だけで「勝ち」「負け」の二つ分けられるほど単純なものではない。

 しかし、親が両極端な思考しかできなくなると、「偏差値65以下は人生終了」といった考え方になり、子供に対して能力以上の高学歴を求める。12歳で決まる人生などまずない。

・教育者型

 親が子供によく言うセリフ→「なんでできないの? うちの子だと思えない!」

 学校や塾の教員の中には、教育虐待をする人が少なくない。

 職場では子供の主体性を尊重する寛容な教員として知られていても、いざ自分の子供が受験をするとなると、過剰なほどのめり込むのだ。

 彼らは子供の学力を上げるのが仕事だし、それによって職場での評価も決まる。だからこそ、子供が低学歴だと、教員としての自分まで“教員失格”のレッテルを貼られた気持ちになる。

 親が勉強できるからといって子供がそうなるとは限らない。学力における遺伝的要因は5割~6割ほどとされている。両親が東大出身でも、3人子供がいれば1人はその学力を遺伝できないのだ。

・劣等感型

 親が子供によく言うセリフ→「私が変な目で見られるんだからね!」

 医者や政治家の家系など、高学歴な親族の中に、1人だけ低学歴の女性(または男性)が結婚して入ったとする。そうなると、低学歴の人は、周りの親族から見下されているように感じる(あるいは、本人がそう思い込む)。

 こういう親は、わが子を低学歴にしたら自分のせいだと批判されると恐れる。それゆえ、自分が低学歴なのに、子供にだけは高学歴を求める。高学歴の親族に対して自分の存在の正当性を証明するために、子供に過剰なほど勉強を強いるのだ。

問題は「要素」ではなく「環境」

 ここまで4つのパターンを見てきたが、こうした要素を持っている親のすべてが教育虐待をするわけではない。

 問題は、中学受験の現場には、こうしたタイプの人たちの精神を必要以上に追いつめる環境があることだ。冒頭で紹介したような「高額な課金システム」や「受験に親を巻き込む手法」の他に、次のようなものが挙げられる。

「親たちの間で行われる子供の学力についてのマウント合戦」「高学歴を必要以上に持てはやすメディア」「動画サイトなどで規制のない状態で垂れ流される過剰な受験情報」「SNSなど同質性の高い空間で飛び交う『公立校へ行ったら人生終わる』などの歪んだ常識」……。

 これらが先述のようなタイプの親の心を余計にかき乱し、時として教育虐待に走らせることがあるのだ。

 親がこうした悪循環に陥る詳しいプロセスについては、漫画『教育虐待』を参考にしてほしい。そのパターンが余すところなく描かれている。

 この漫画の取材で、教育熱心になる余り、子供を限界まで追いつめて、心を病ませてしまった親に会った。子供は受験には合格したものの、その直後に精神が壊れ、引きこもってしまった。

 親はこう語っていた。

「受験直前の12月には子供に異変を感じていました。でも、ここまでやったからには、今更やめさせるわけにはいかないと思っていましたし、やめればうちの子がドロップアウトしたと周りから馬鹿にされると恐れていました。それで『やめよう』とは言えなかったのです」

 受験はあくまで子供のためのものであるべきなのに、それが親主体のものになった時、教育虐待のリスクが一気に高まるのである。

石井光太(いしい こうた)
1977年、東京生まれ。2021年『こどもホスピスの奇跡』で新潮ドキュメント賞を受賞。主な著書に『遺体 震災、津波の果てに』『「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち』『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』『教育虐待 子供を壊す「教育熱心」な親たち』など。『ぼくたちはなぜ、学校へ行くのか。マララ・ユスフザイさんの国連演説から考える』など児童書も多い。『ルポ スマホ育児が子供を壊す』(新潮社)はロングセラーとなっている。

デイリー新潮編集部

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