美貌の先輩がストーカーに豹変 尾行、番犬に毒餌、怪文書…男子高校生が受けた異常な「つきまとい行為」とは【川奈まり子の百物語】
鉢合わせ
――やがて夏の帰省シーズンになった。
帰郷の往路、2人で同じ特急電車の隣り合う席を予約した。
途中で停車したときにA子がトイレに立った。
間もなく彼女は戻ってきたが、顔色が悪く、しきりに後ろを気にする素振りを見せた。
「どうした?」と訊ねると、「B先輩がいた」と訴えるではないか。
女子トイレから出ると、そこにB先輩が立っていたのだという。
「怖かった。凄い顔で睨んできたから、咄嗟に逃げてきちゃった」
「見間違いじゃないの? 最後に会ってから2年近く経つよ?」
A子は「間違いなくB先輩だった」と言い張った。
そこで、利幸さんは乗車中の車内で遭遇したときのために、先輩の服装などをだいたい把握しておきたいと考えた。気がつき次第、心構えをしておきたかったからだ。
「先輩は、どんな格好だった? 何色の服? 髪型は変わってた?」
たった数分前の出来事である。聡明なA子なら簡単に答えられるはずだ。
しかし、なぜか彼女は困り顔で首を横に振るばかりだった。
「どうしてかな? 全然思い出せない。顔しか憶えていないみたい。変だなぁ」
何ら前触れなくB先輩に遭って睨みつけられたショックのあまり、A子は健忘症に陥ったのだろうか?
利幸さんは、A子らしくないことだと思いつつ、そう解釈した。
郷里の駅に着くまでの間にB先輩が自分たちを探して来ないとも限らない。
また、下車する際にホームで会う可能性は極めて高いことが予想できた。
先輩は、偶然同じ特急を選んだのだろうか?
それとも未だに執念深く彼らをつけ狙っているのだろうか。
この答えは、ほどなく明らかになった――ただし彼が想像したのとは違う形で。
母の話
同日、家族団らんの夕食の席で、母が利幸さんに向って「あんたが高校の部活で一緒だった例の先輩のことだけど」と切り出した。
彼はドキリとして、「急に何?」と母に言った。
特急電車にB先輩と乗り合わせてしまった件を、彼はまだ家族に話していなかった。
A子と一緒に帰郷したことをなんとなく伏せていたので、話しづらかったのだ。
しかも、到着した駅のホームではB先輩を見かけなかった。
そのためA子はにわかに自信を失って「トイレのところで遭ったのは先輩じゃなかったのかな?」などと言いだしたのである。人違いなら何も問題ないわけだった。
家族の間でB先輩が話題に上る機会がなくなってから、どれほど経つだろう……。
1年……いや、2年近くにもなるだろうか。
先輩のことは過去に遠のき、家族の誰もが日頃は思い出さなくなっていたはず。
「B先輩が、どうかした?」と彼が重ねて訊ねると、母は「あんたも知らないのね」とつぶやいて、おもむろに話しはじめた。
「Bさん、ずいぶん前にお亡くなりになっていたの」
―――
付きまとっていたB先輩はすでに亡くなっていた……。【記事後編】では、大学生カップルのその後が明かされる。
[4/4ページ]

