美貌の先輩がストーカーに豹変 尾行、番犬に毒餌、怪文書…男子高校生が受けた異常な「つきまとい行為」とは【川奈まり子の百物語】
拡大する被害
一連の行為は彼らが2年生に進級しても続き、たまりかねた利幸さんは、とうとう両親に相談した。
相談した当初は真面目に取り合ってもらえなかった。
しかし、そうこうするうち、彼が塾の夏期講習に参加した折に、乗っていった自転車を壊される事件が起きてしまった。
夏期講習が行われたビルの駐輪スペースに停めておいた自転車が、そのビルと隣のビルの間の狭い隙間に勝手に移動させられていた上に、前カゴが潰され、刃物で両輪が切り裂かれていたのである。
これでようやく彼の両親は事態を深刻に受け止めた。彼と一緒に警察に出向いて相談をし、さらに学校にも報告を入れて対応を求めたのであった。
だが、残念なことに、警察は相談内容を記録してくれたのみで、学校側も二学期の開始を待ってB先輩に口頭で注意を促しただけだった。
それでもB先輩には耐え難かったようだ。二学期が始まっていくらも経たずに不登校となり、やがて卒業前に退学してしまった。
B先輩が学校から消えて、利幸さんたちは大いに安堵したという。
しかし、それも束の間。
それからも後をつけられている気配を感じたり、B先輩と思われる人影を見かけたような気がしたりといった、ストーキング行為と思しきものが頻繁に繰り返されたのだった。
怪文書
「他にも、B先輩の退学前後の頃にA子の家の番犬が急に死んで、誰かに毒餌を食べさせられたんじゃないかと彼女の家族全員が疑っていたということがありました。僕の家でも、高三になって間もない4月の初め頃、ポストに怪文書が入れられて……」
ある朝、彼がポストに新聞を取りに行くと、四角く折りたたまれた便箋が入っていた。
広げてみたら、一見、真ん中に鉛筆でグチャグチャと線が書き殴られているだけのようだったが、よくよく見れば、彼の名前を記した上に「✕」をいくつも重ねて書いてあったのである。よほど力を籠めて書いたのか、筆圧が強く、線が重なった部分はところどころ孔が開きそうになっていた。
こんなことをする人物は1人しか思い当たらない。
「だけど、その紙は親に見せずに丸めてゴミ箱に捨ててしまいました。自転車のとき警察署で捜査してもらえなかったのが一種のトラウマになっていました。あのときの落胆と屈辱感が忘れられず、怪文書が来たと知ったら親はまた大騒ぎするでしょうけど、この程度で警察が動いてくれるでしょうか? 僕は時間の無駄だと思いました」
A子の家の飼い犬についても、毒餌の証拠は発見されず、B先輩ならやりそうだと思えるだけで、何ら証拠がなかった。
先輩と顔を合わせることがあれば文句の一つも言ってやりたいと利幸さんは思っていたそうだが、彼女は嫌がらせをするばかりで、姿を現そうとしなかった。
受験が近づくにつれ、彼やA子は、こういうつきまとい行為に構っていられなくなり、B先輩についてはある意味あきらめた。
つまり、すべきことに集中したのだが、その甲斐あって、彼は第一志望の大学に合格した。
A子もまた志望していた私大に進学が決まり、揃って上京する運びとなった。
2人はそれぞれ大学の学生寮に入り、節度ある交際を続けた。
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