生まじめな政治映画と思いきや…サスペンス・エンタテインメントの傑作「プラハの春 不屈のラジオ報道」が描いたロシア“軍事侵攻”の実像

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“プラハの春”弾圧、通称「チェコ事件」とは

 ロシア(旧ソ連)の歴史は、「侵攻の歴史」だともいわれる。17世紀以降、数度にわたるポーランド侵攻、第2次世界大戦末期の満州・朝鮮・千島列島侵攻、1980年代のアフガニスタン侵攻、2014年のクリミア併合。そして2022年からはじまったウクライナ侵攻……。

 そんな「侵攻の歴史」のなかで、いまでも多くの人たちの記憶に強く残っているのが、1968年の“プラハの春”弾圧、通称「チェコ事件」だろう。単なる旧チェコスロヴァキアへの軍事侵攻にとどまらず、強硬な文化・思想統制がともなったばかりか、一般市民に多くの死傷者が出た。のちに、小説や音楽などの題材にもなっている。

 政治ジャーナリスト氏の解説。

「第2次世界大戦後、チェコスロヴァキアは共産党が主導する社会主義国家でしたが、事実上、ソ連の衛星国としての“支配”下にあり、文化・言論を統制されてきました。しかし、1968年1月、共産党第一書記に、アレクサンデル・ドゥプチェクが就任すると、“人間の顔をした社会主義”と称される、自由化路線を推進します。これを“プラハの春”と呼び、大歓迎されました」

 だが、“プラハの春”による、地方分権化と報道・言論の自由は、ソ連にとっては許せなかった。

「1968年8月20日深夜、ソ連が主導する、ワルシャワ条約機構軍50万人規模の大軍勢が、予告なしで国境を越えてチェコスロヴァキアに軍事侵攻。国中を“占領”し、ドゥプチェクも逮捕されました。最終的に130名以上の死者、500名以上の重傷者を出し、“プラハの春”は、一夜にして葬られたのです」

 この事件を背景にして書かれた小説が、ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』(1984年初刊)で、1988年にはフィリップ・カウフマン監督、ダニエル・デイ=ルイスとジュリエット・ビノシュ主演で映画化された。

 また、アメリカに亡命していた作曲家、カレル・フサは、事件を題材にした慟哭の吹奏楽曲《プラハ1968年のための音楽》を発表、いまでも世界中で演奏されている。日本では、愛知工業大学名電高校が全日本吹奏楽コンクールで何度も取り上げ、名演を披露してきた。よって、“プラハの春”といえば、日本では、中高生の吹奏楽部員のほうが、感度があるかもしれない。

 そんな歴史的事件が、分離独立したチェコとスロヴァキアの合作で、大作映画になり、公開中だ。「プラハの春 不屈のラジオ報道」(イジー・マードル監督、チェコ・スロヴァキア合作、2024)だ。タイトルどおり、物語の舞台は、ラジオ放送局である。

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