生まじめな政治映画と思いきや…サスペンス・エンタテインメントの傑作「プラハの春 不屈のラジオ報道」が描いたロシア“軍事侵攻”の実像
国際報道部長ヴァイナーは、実在の“不屈の英雄”
「舞台は、1967~68年の、チェコスロヴァキア国営放送局のラジオ部門、国際報道部です。この部署は、ふだんから、ソ連の“支配”に対して批判的で、自由を求める報道を貫いてきました。その中心人物が、部長で、ラジオ・パーソナリティでもある、ミラン・ヴァイナーです。このひとは実在の人物だそうで、病に倒れるまでマイクに向かいつづけた、“不屈の英雄”です」
そのほかのスタッフも、大半は実在の人物がモデルで、中には、このヴァイナーのように、本名で登場するキャラクターもいる。
「ここに、架空の、ある兄弟がからむシナリオ構成が、実にうまくできています。この兄弟は、両親を亡くしており、中央通信局で技師として働く兄トマーシュが、大学に通う弟の面倒を見ています。ところが弟は、反体制派の学生運動に参加しており、ノンポリの兄としては、心配で仕方ないのです」
あるときトマーシュは、上司に呼び出され、ラジオ局の国際報道部へ強制的に出向させられる。
「それは、国際報道部を“監視”しろという、国家保安部の秘密指令でもありました。つまり、スパイになれというわけです。さからえば、学生運動に参加している弟が、どうなっても知らんぞ、と脅されて……。こうしてトマーシュは、仕方なく、反体制派の拠点ともいうべき、国際報道部の一員となるのです」
トマーシュは、運動には極力、かかわらないようにするのだが、実際には、そうはいかない。自然と、ヴァイナーたちの活動に関与してしまうようになる。女性部員と恋にも落ちる。
「やがて“プラハの春”が訪れ、国内には自由化の波が高まってきますが、ソ連が、それを許しません。次第にソ連の圧力が強まり、ついに軍事侵攻に突入するのです」
それまでに、国家保安部によって、無理やりスパイに仕立て上げられてきたトマーシュには、次第に“変化”が生じていた。
「ここが、この映画のうまいところです。特に、前半の主人公ともいうべき、部長のヴァイナーが病に倒れてから、ノンポリだったトマーシュが、変わり始めるのです」
軍事侵攻のシーンは、たいへんリアルである。
「当時のニュース・フィルムが挿入されますが、デジタル処理されているようで、本編とのつながりが、とてもうまくできています。この映画は、全般的に、1960年代を再現した美術やセット、衣裳、小道具なども見事なのですが、そのヴィジュアルにワルシャワ条約機構軍の侵攻が重なり、町を破壊していくシーンなどは説得力抜群です」
やがて侵攻軍が、放送局に突入する。最後まで、侵攻の実態を中継し、「わたしたちは、あなたと共にいます」と民衆に呼びかける国際報道部のスタジオも、侵攻軍に占拠され、機材が破壊される。だが、それでも報道部員たちは、ある方法を用い、その後も放送をつづけようとする。その放送に、トマーシュが大きくかかわることになる。果たして、彼は、ソ連側につくのか、民衆側につくのか……。そして、弟の安否は……。
「後半、軍事侵攻がはじまってからは、息をもつかせぬテンポで突っ走ります。要所に、当時の現地でのヒット曲と思われるポップス歌謡が流れるのが印象的です。残念ながら、歌詞の日本語字幕が出ないのですが、とても味わいのある音楽で、効果的でした」
[3/4ページ]


