生まじめな政治映画と思いきや…サスペンス・エンタテインメントの傑作「プラハの春 不屈のラジオ報道」が描いたロシア“軍事侵攻”の実像

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ウクライナ侵攻がつづくいまこそ、観たい映画

「ロシアのウクライナ侵攻が、いっこうに出口が見えない現在、このような映画が公開される意義は、大きいと思います」

 と、先の政治ジャーナリスト氏が語る。

「ウクライナでも、侵攻直後、キーウの電波塔が破壊されるなどして、報道メディアが危機にさらされました。その後、複数のTV局が“合流”して、TVマラソンと称する24時間報道を交代でつづけ、ラジオ局も、それに従っています」

 しかし、“プラハの春”弾圧の時代との、大きなちがいがある。

「それは、SNSやZOOM、YOUTUBEなどのデジタル・ツールや、衛星放送、ケーブルTVといった、新しいメディアが充実していることです。なかにはフェイクが入り乱れるSNSもあるようですが、仮にTVやラジオが不通になっても、YOUTUBEで現地の様子を伝えることができるのです。それだけに、メディアの存在意義とパワーは、むかし以上だといえます。しかし、それらを動かすのは、いまもむかしも、人間です。この映画のトマーシュを見ていると、どんなに技術が発達しても、真実は、人間の声が伝えるものであることを、身に沁みて教えられます」

“トマーシュ”という名は、チェコやスロヴァキアでは、決して珍しい名前ではない(英語圏の「トーマス」にあたる)。チェコの初代大統領もトマーシュ・マサリクだったし、テニスやサッカー選手に、よく見る名前だ。先述の『存在の耐えられない軽さ』の主人公も、トマーシュだった(こちらもノンポリだった)。

 そんな当たり前の名前をもつ若者が、当たり前でない行動に没入する――その姿を美しく描いた、感動的な作品である。ロシアのウクライナ侵攻がつづくこの年末に、じっくり鑑賞したい、おとなの映画だ。

 ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで全国公開中。配給:アット エンタテインメント。

【写真】(C) Dawson films, Wandal production, Cesky rozhlas, Ceska televize, RTVS - Rozhlas a televizia Slovenska, Barrandov Studio, innogy

森重良太(もりしげ・りょうた)
1958年生まれ。週刊新潮記者を皮切りに、新潮社で42年間、編集者をつとめ、現在はフリー。音楽ライター・富樫鉄火としても活躍中。

デイリー新潮編集部

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