韓国「戒厳令」1年 “日本に勝るK民主主義”の誇りはどこへ… 「やっぱりアジアのベネズエラ」――鈴置高史氏が読む

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ベネズエラ化は文在寅時代から

――韓国はどうしてこんな無法国家になってしまったのでしょうか。

鈴置:身も蓋もない言い方をすれば、もともと法治意識に乏しいからです。そのうえ、左右対立が激化して政治勢力が「生きるか死ぬか」という精神状況に追い込まれた。すると三権分立や法治など、ますますどうでもよくなってしまう――。

 左派政権の三権分立破壊の前には保守政権の戒厳令がありました。その前の左派、文在寅(ムン・ジェイン)政権下では法相が4カ月の間に3回も指揮権を発動しました。

 左右の政治勢力は権力闘争を繰り広げながら法治を壊してきました。その結果、政争のルールが消滅したために、さらに対立が激化する――という悪循環に陥ったのです。

 韓国の崩壊は「ベネズエラ化する韓国 3年前に鈴置高史氏が『民主主義の崩壊』を予言できたワケ」(2025年1月14日)で書いた通りに進んでいます。

――韓国はアジアのベネズエラになる、とは鈴置さんの持論でした。

鈴置:私の発明ではありません。韓国の何人かの保守知識人が2019年頃から「ベネズエラ化」に警鐘を鳴らしていました。

 選挙で勝った「民主派」が政権を維持するために司法を掌握し、独裁体制を敷いて行く――。当時の文在寅政権の中に、チャベス政権下のベネズエラと同様の危うさを見出だしたのです。

 この辺りは『韓国民主政治の自壊』第2章「あっという間にベネズエラ」を参照下さい。韓国の転落は本当に「あっという間」でした。

三権分立を壊す「正義の側」

――韓国はまともな国に戻れるでしょうか?

鈴置:難しいと思います。まだ、多くの韓国人が「日本よりも成熟した栄光のK民主主義」を信じているからです。識者には「法治の破壊」や「ベネズエラ化」を危惧する人が多い。でも、普通の人はそうは考えない。韓国の危うさに気付いている韓国人はごくわずかなのです。

――なぜ気付かないのでしょうか?

鈴置:ほとんどの韓国人はちゃんとした法治国家に住んだことがない。すると、法治国家のありようも、ありがたさも知らないのです。

 もうひとつは左派政権の宣伝のうまさです。戒厳宣布により「アフリカや南米の後進国並みに堕ちた」と韓国人はショックを受けました(「“見栄”の民主主義はもろかった… 現職大統領の逮捕が招く『韓国』左右対立の激化」参照)。

 韓国人の傷ついた心を癒したのが「大統領は後進国型だが、市民の民度は高く、戒厳令を中止させた」との言説でした。先進国コンプレックスの強い韓国人はこれに飛びつきました。

 左派政権にとっては思うつぼでした。「左派こそは市民とともにK民主主義を主導した」正義の側と、ことあるごとに強調すればいいのですから。

 三権分立を壊そうと、法治を踏みにじろうと、やっているのは「正義の側」なのです。生活に支障が無い限り、文句を言う庶民は出てきません。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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