韓国「戒厳令」1年 “日本に勝るK民主主義”の誇りはどこへ… 「やっぱりアジアのベネズエラ」――鈴置高史氏が読む

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「あの女は疫病神だった」

 保守には「あの女こそが疫病神だった」と金建希氏を恨む人が多い。確かに、疫病神そのものです。野党に弱点「金建希」を挑発された大統領は思わず戒厳令を発動してしまい挫折。さらには弾劾され政権も左派に奪われた。

 尹錫悦政権は少数与党でした。法案を通せず、閣僚も野党に弾劾されるなど運営に困難を抱えていたのは事実です。韓国の国会に解散はありませんから、次の総選挙の2028年4月まで議席数は変わらず、2027年5月の大統領の任期満了まで少数与党の状態は続きます。

 でも、「共に民主党」の李在明代表を裁判で追い込んでおり、もう少し我慢すれば戒厳などせずとも打開の道は開けた、と悔しがる保守人士が多いのです。

 結局、戒厳令から1年経った今、尹錫悦氏は内乱首謀罪や外患罪、職権乱用罪などで起訴され、収監されています。外患罪が加わったのは、戒厳の名分を作ろうと無人機を北朝鮮に飛ばし挑発したとの疑いからです。

 金建希夫人も株価操作などの容疑で特別検察官によって調べられており12月3日、懲役15年を求刑されました。大統領経験者が夫人とそろって拘留起訴されるという韓国憲政史上、初めての事態です。

 2025年12月2日現在、特別検察官が内乱罪関連で起訴しているのは25人。多くが尹錫悦政権の閣僚で当時の肩書で言えば、大統領のほか首相、警察を担当する行政安全相、国防相、国家情報院長らです。

「もう、お目にかかれません」と言う軍人

 軍からは戒厳司令官を務めた陸軍参謀総長、防諜司令官が内乱にかかわったとして拘留起訴されています。このほかに戒厳の実働部隊となった特殊戦司令部や首都防衛司令部の司令官らが軍事裁判を受けています。軍事裁判を含め法廷に立たされた軍人は16人です。

 これらのデータは朝鮮日報の「大統領逮捕、総理ら25人が裁判に…6時間の戒厳で根絶やしの尹政権」(12月3日、韓国語版)から拾いました。

 もちろん、彼らへの捜査・起訴はすべて李在明政権の差し金です。今秋、幹部自衛官OBが韓国を訪れて旧知の軍人と会ったら「もう、お目にかかれないと思います」と言われたそうです。自分の収監を予期していたのです。

 戒厳令にかかわった軍人はごく一部ですが、左派とすれば軍も自分の勢力圏に取り込むチャンスです。尹錫悦政権下でそれなりのポストに就いていた人はすべて粛清対象です。

 検察もお終いです。李在明政権下で捜査権を取り上げられ、起訴だけを実施する司法機関――公訴庁に格下げされます。

 韓国の検察は建国以来、歴代政権の手下であり、野党政治家を弾圧するための道具に使われてきました。警察に対する捜査指揮権を持ち、自らも捜査・起訴ができる検察は実に強力な機関でした。

 左派とすれば検察は目の上のたんこぶです。前々から捜査権を奪おうと画策してきましたが、検察の事件処理能力が落ちるとの反論もあり、思うようになりませんでした。それが戒厳令という検事出身の大統領の大チョンボを機に、一気に実現に向け動き出したのです。

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