韓国「戒厳令」1年 “日本に勝るK民主主義”の誇りはどこへ… 「やっぱりアジアのベネズエラ」――鈴置高史氏が読む

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裁判官を脅すための法律

――左派政権はやりたい放題ですね。

鈴置:与党の「共に民主党」はついには裁判所の支配にも乗り出しました。ちょうど「内乱」1年後となる12月3日、法制司法委員会で「内乱専門担当裁判部設置法案」と「法歪曲罪を実施するための刑法改正案」を通しました。
 
 いずれも司法の独立を侵す、先進国ではまれな法案です。前者は尹錫悦氏ら内乱罪で起訴されている人々を専門に裁く裁判所を作るのが目的です。

 現在、尹錫悦氏を裁いている一審の裁判長が無罪判決を下す可能性があると左派は危惧し始めた。そこで法務部長官も裁判官を指名できる「内乱専門担当裁判部」を作ってそこに移し、確実に有罪判決を下す狙いと見られています。

 そもそも特定の人を処分するために法律を作ったり、裁判部を構成するというのは先進国では禁じ手です。「共に民主党」は内乱断罪を名分に違憲性が高い「内乱専担裁判部」を構成しようとしているのです。

 後者の「法歪曲罪を実施するための刑法改正案」は警察官、検察官、裁判官が法を歪曲して適用した際に10年以下の懲役を科す法律です。もちろん狙いは内乱罪を裁く裁判官への圧力です。

 最高裁の裁判官で裁判所の行政を担当する千大燁(チョン・デヨプ)行政処長は3日、法制司法委員会で「[民主化宣言後に定めた]87年憲法下で享受してきた三権分立、司法府独立が歴史の裏側に消えかねない」と警告しました。

 5日に開いた全国裁判所長会議も、この問題を論議した後「裁判の中立性と公正な裁判を受ける権利を本質的に侵害し違憲性が大きい。深刻な懸念を表明する」と発表しました。

独裁を倒した側も独裁

――新聞の反応は?

鈴置:法治の欠如には無頓着な韓国紙も、この左派の無法ぶりにはさすがに社説で批判しました。朝鮮日報の「違憲『内乱裁判部』『判事処罰法』をついに強行、理性を失った政権」(12月5日、韓国語版)の結論部分が以下です。

・三権分立、司法部独立がなくなればそれが独裁だ。戒厳を阻んだという政権が、戒厳を犯した勢力も顔負けの独裁の形態を見せている。今は民主主義の危機だ。

 東亜日報は「“違憲議論”のある内乱裁判部の推進、すぐに止めよ」(12月6日、韓国語版)で以下のように指摘しました。

・司法部がもっとも懸念するのが、特定の事件を担当する裁判部を別途に構成するという点だ。裁判所は裁判の公正性のために事件をランダムに割り当てるが、内乱裁判だけ特定の裁判部に任せればこの原則が根本から崩れてしまうからだ。
・裁判部の選任過程で憲法裁判所や法務部など外部機関が参加することが司法部の独立性を損なう可能性があるという意見も少なくない。

 中央日報は「『三権分立が消えるだろう』という韓国裁判所の警告」(12月7日、日本語版)で「一連の動きは『司法改革』ではなく執権勢力の司法統制の試みにすぎない」と断じました。

 左派系紙のハンギョレでさえ、社説で「内乱裁判部設置法案」に関しては疑問を呈しました。「内乱専担裁判部の違憲性問題、実益を熟考し慎重な処理を=韓国」(12月6日、日本語版)です。

 ただ、「三権分立を壊すな」といった法治国家への希求ではなく、「内乱裁判部が違憲だとの訴訟を起こされたら、尹錫悦を有罪にするのに時間がかかってしまう」という党派性の強い、実務的な理由からでした。

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