韓国「戒厳令」1年 “日本に勝るK民主主義”の誇りはどこへ… 「やっぱりアジアのベネズエラ」――鈴置高史氏が読む
諫言に激怒
半面、金建希氏は危機一髪の状況でした。株価操作、収賄や人事介入など様々な疑惑を抱えており、野党第1党の「共に民主党」は金建希氏の捜査を目的とする特別検察官の設置に動いていました。
検察は保守の牙城。ことに尹錫悦氏は検察出身で検事総長まで歴任した人ですから、その夫人の捜査に検察の後輩が動くわけがありません。そこで国会で特別検察官を任命して捜査に使おうとしたのです。
特別検察官設置法案の採決予定日は2024年12月10日でした。尹錫悦大統領は可決の可能性が高いと踏んで、1週間前の12月3日に戒厳令に踏み切った、と見られています。
可決には3分の2の賛成票が必要です。国会議員300人中、与党「国民の力」の所属議員は108人いましたから、普通なら否決されるはずでした。しかし、「国民の力」は分裂含みだったのです。
大統領の最側近だった韓東勲(ハン・ドンフン)氏が造反し、野党に合流して特別検察官の設置賛成に回るとも見られました。韓東勲氏を支持する議員は20人ほどおり、彼らが抜けると3分の1を確保できない計算です。
尹錫悦大統領と韓東勲氏との仲たがいも夫人が原因でした。国会議員選挙を前にした2024年1月、韓東勲氏は大統領に「選挙に勝つには金建希氏の国民への謝罪が必須」と訴えました。
この諫言に大統領は激怒し、韓東勲氏を党の要職である非常対策委員長から外そうとしました。結局、金建希氏の謝罪は実施されず、4月の国会議員選挙では「国民の力」は議席を114から108へと減らしました。
最側近との仲たがいで墓穴
――夫人への捜査を防ぐために戒厳令とは!
鈴置:にわかには信じがたいのですが、大統領夫妻を知る人には不思議ではないのだそうです。尹錫悦氏は大変な恐妻家で、夫人にまったく頭があがらない。公式の席で酒を過ごして隣に座る夫人から睨まれ、しぶしぶ杯を降ろす写真が新聞に載ったりしました。
政権スタート直後から「強すぎる夫人が問題を起こすのではないか」と懸念する韓国のベテラン記者がいました。「大統領はなぜ、そんなに奥さんが怖いのですか」と聞くと、「50歳過ぎの男やもめが結婚してもらったのですから」と苦笑いしながら説明してくれました。
2人が結婚した時、尹錫悦氏は辣腕検事として名を馳せていましたが、大統領にまでのぼり詰めると想像した人はいませんでした。
――諌めた人と仲たがいしたのが尹錫悦氏の失敗だった…。
鈴置:仲たがいは戒厳令の後、国会が尹錫悦大統領の弾劾を審議した時にも効きました。やはり3分の2の賛成が必要でして1回目での弾劾決議案では否決されました。
が、2回目では韓東勲氏らが賛成に回り、可決されたのです。戒厳令の逮捕者リストに野党指導者だけでなく、自身も入っていたと知ったからです。
検察時代、韓東勲氏は尹錫悦氏の忠実な部下でした。だから、尹錫悦氏は大統領に就任すると検事だった韓東勲氏を法務部長官に任命した。
一方、韓東勲氏も親しい関係だったからこそ「金建希リスク」を率直に指摘したのでしょう。しかし、尹錫悦氏にとっては忠言も耳に入らないほど夫人が恐ろしかったのです。
[2/5ページ]

