心霊写真を撮ってしまった女子大生…写りこんだ影の正体は「いるはずのない知った顔」 怨念は拡散されたのか【川奈まり子の百物語】

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 ストックサイトから函館で撮ってきた写真をすべて削除した後、未佳さんは再びお寺で厄除けしてもらったという。

 また、その後は、今に至るまで、従姉の祥月命日には墓参りをしているそうだ。

「命日のお墓参りについては、当然と言えば当然なんですけどね。なぜって、結局、従姉の死から2年ぐらいして伯母夫婦は離婚して、その翌年に伯母が癌で早死にしてしまったので、うちの実家が従姉と伯母のお墓を守っていますから」

「ご実家がお墓を? 伯父さんは、どうされたんです?」

「行方がわかりません。いえ、本気で捜せば見つけられるかもしれませんが、伯母が入院したことを母が電話で連絡したら『わかりました』とだけ言って、どこかへいなくなってしまった。親戚一同、伯父に呆れてしまって、誰も本気で捜そうとしなかったんです。離婚後に独りで住んでいたアパートはもぬけの殻で、会社も辞めていた、とは聞いています」

「家も仕事も捨てて? そこまでして姿をくらますのは只事ではありません。もしかして伯父さんもお亡くなりになっているのでは?」

「そうかもしれません。でも、どうしようもありませんから、今のところは、従姉と伯母の御霊の安らかなることを祈るばかりです」

 未佳さんがパソコンに保存していた函館旅行の写真データも、なぜか消えてしまって、どこをどう探しても見つけられなかったのだという。

「私は、この件については、もう何もかも済んだと言いたい気持ちです。ただ……当時からずっと気がかりなことがひとつだけあって……初めて人に打ち明けるのですが……ストックサイトから函館の写真を削除する前に、1枚だけダウンロードされてしまっていたんですよ!」

「え? それはつまり、誰かが心霊写真を買ってしまったということですか?」

「はい。しかも、その人は変なものが写っていることに気づかずにダウンロードした写真をンターネット上で表示される何かに使ってしまって、従姉の怨念が残るデータが世の中に拡散している可能性もゼロではないのです」

 私は「従姉さんはもう成仏なさったでしょうから、もしもその写真が今も此の世に存在しているとしても、怪しい影は消えているのでは?」と言ってみたが、どんな言葉も無責任な気休めに過ぎない。そうであってほしいと切に願うばかりである。

――― 
記事前半】では、大学時代の未佳さんと友人の函館旅行と、そのときに撮れてしまった「心霊写真」について語られる。 

川奈まり子(かわな まりこ) 
1967年東京生まれ。作家。怪異の体験者と場所を取材し、これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集。怪談の語り部としても活動。『実話四谷怪談』(講談社)、『東京をんな語り』(角川ホラー文庫)、『八王子怪談』(竹書房怪談文庫)など著書多数。日本推理作家協会会員。怪異怪談研究会会員。2025年発売の近著は『最恐物件集 家怪』(集英社文庫8月刊/解説:神永学)、『怪談屋怪談2』(笠間書院7月刊)、『一〇八怪談 隠里』(竹書房怪談文庫6月刊)、『告白怪談 そこにいる。』(河出書房新社5月刊)、『京王沿線怪談』(共著:吉田悠軌/竹書房怪談文庫4月刊) 

デイリー新潮編集部

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