「5本爪の龍」に「黄色の服」 けっこう意外な“皇帝専用”だったもの(古市憲寿)
台北の故宮博物院に行くと、何組もの修学旅行生や中高年のパックツアーとおぼしきグループに遭遇した。存立危機事態どうこうというニュースに関係なく、ミュージアムは各国からの旅行者でにぎわっていた。聞き耳を立てていたわけではないのだが、自然とガイドの説明が耳に入ってくる。その中で面白いと思ったのは龍の爪の話だ。
【実際の写真】実は“意外な色” 天皇のみが着られる「黄櫨染御袍」
中国の陶磁器などでおなじみのモチーフである龍。実はいくつ爪を描くかには厳格な決まりがあったのだという。特に重要なのが「5本爪の龍(五爪龍〈ごつめりゅう〉)は皇帝専用」というルール。五爪龍を使うのは皇帝の衣装や食器、宮殿の装飾などに限定され、勝手に使用するのは重罪だった。「俺は皇帝と同格だ」というメッセージになり、反逆の象徴とされたのだ。四爪は貴族や高官限定だが、三爪なら庶民も自由に描いてよかった。龍の爪が身分の象徴だったのだ。
ここで問題です。日本における龍の爪の数は? 一番多いのは三爪。四爪もある。そもそも日本では三爪がスタンダードだったという説と、中国への配慮があったという説もある。まあ、ケースバイケースだろう。公式に「爪ルール」が廃止されたのは清朝が崩壊した1912年。もちろん今では誰もが自由に五爪龍を使うことができる。
爪に限らず「かつては偉い人にしか許可されていなかったもの」は意外とある。同じ中国では黄色が皇帝の独占色だった。臣下が黄色の服を着ることは固く禁じられていた。皇帝の住まいである紫禁城の屋根瓦も黄色だ。その紫禁城が今では博物館として誰でも入場可能。ちなみにこれも故宮博物院。1925年、北京に開館したが、政治的に引き裂かれ、宝物は北京と台北に分かれて収蔵されている。今年はどちらの故宮博物院も100周年のアニバーサリーイヤーで記念展が開かれていた。中国史にとって重要な作品は国民党が持ち出したので台北に集中している。台湾問題は、故宮博物院の宝物の行方にも影響するのだ。
日本では、天皇のみが着用を許されてきた黄櫨染御袍(こうろぜんのごほう)という装束がある。色は黄櫨染と呼ばれる黄色がかった茶色。「絶対禁色」と呼ばれて、天皇以外は着用できなかった。もちろん今なら法的には自由に着ても構わないが、そんなに誰もが「着たい!」と思うような色ではない。当時は五爪龍も黄櫨染も憧れの的だったのかもしれないが、今となってはなぜ権力者が独占したがったのか直感的には理解しがたい。
平均的な現代人の方が、昔の権力者よりも豊かな生活をしている。医療水準は上がり、寿命は長くなった。世界中のほとんどの都市は飛行機で結ばれていて、本気になっても行けない場所はあまりない。スマートフォンが一台あれば古今東西の情報に簡単にアクセスできる。五爪龍の描かれた服の着用許可と、スマホを使えること、どちらかを選べと言われたら、ほとんどの人は迷わず後者だろう。こんな豊かで平和な時代がこれからも続けばいい。





