高市答弁「正しい派」「間違い派」の両方が押さえておくべき最低限のファクト 台湾外交部の冷静な分析は

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「周到な戦略」か「うっかり」か

 当初、高市答弁が問題視された際、筆者は「何かの目算や戦略があって、想定できる事態を具体的に述べた可能性があるのではないか」と考えた。これまで「存立危機事態の認定は総合的に判断する」としてきた歴代の総理答弁から踏み込んだのは事実であり、そこにどのような外交的、安全保障的展望を見ての発言だったのか、気になったためである。

 台湾有事の可能性は中国が国家戦略として「武力行使による統一を否定しない」と明言していることからも、日本として考慮しておかなければならない事態である。

 もし高市総理が「台湾有事の際にアメリカの介入をもって日本も集団的自衛権を行使することになる可能性について、国民に知らしめ、議論を尽くさねばならない時期に来ている」とか、「アメリカは一国平和主義の傾向を強め、台湾有事で台湾に加勢し『一人負け』するのを避けたがっている。アメリカが来援し、劣勢に立たされ日本にも危機が及ぶとなれば、日本が集団的自衛権を行使する可能性を改めて示す必要がある」などと考えて今回の答弁になったのであれば、その意をくんだ上で論評することも可能であった。

 ところが批判を受けた高市総理は11月10日の答弁で「反省点として特定のケースを想定したことについて、この場で明言することは慎む」と述べた。さらに26日には「(7日の答弁では)聞かれたから答えたまで」「答えたくはなかった」とし、存立危機事態に関しては歴代の総理答弁と同様に「実際に発生した事態の個別具体的な状況に即して、全ての情報を総合して判断する」と述べている。

 これにより、問題の答弁が何らかの戦略や覚悟に基づくものではなく、「つい」「うっかり」口にしたものだと改めて確認できた。驚くべきことである。高市総理は朝3時から答弁を練ってきたはずではないのか。

防衛官僚の危惧

 もとより、何でも一人でやろうと抱え込むと批判される高市総理だが、月刊『Hanada』2026年1月号に掲載された防衛官僚の匿名座談会では、「高市総理からのレクの要請がない」とする防衛官僚のコメントが掲載されている。高市政権の誕生を大歓迎していた同誌である点は注目すべきである。

 さすがに外務官僚は日米首脳会談やAPECに関するレクなり事前準備には関わったであろうが、平和安全法制に関する外交的答弁ラインに関する総理レクが十分に行われたかどうかは答弁内容を見る限り、疑わしいと言わざるを得ないだろう。

 われわれは「官僚答弁ではなく、自分の言葉で語るリーダー」を求めてきた節がある。だが、「自分の言葉」は、何らかの戦略や、負荷を乗り越えてでも発すべき理由があって初めて成り立つものだ。官僚レクやこれまでの総理答弁、各国への影響の波及なども考えた上で練られたものでなければならない。

 高市発言は法的には間違っていないし、最悪のケースを想定することも重要ではある。だが何の戦略もなく総理が答弁していい内容でもない。

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