高市答弁「正しい派」「間違い派」の両方が押さえておくべき最低限のファクト 台湾外交部の冷静な分析は

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 台湾有事に関連した高市早苗総理大臣の答弁の評価は真っ二つに分かれている。それぞれの立場の人たちが、反対側を国会、テレビ、SNS上で厳しく非難しあう状況だ。

 しかし実はファクトを把握しないままの空論も多いのではないか――ライターの梶原麻衣子氏は指摘する。高市政権批判の道具として中国を利用する人たちは問題だが、一方で過去の発言からは、高市総理の持つ「うかつさ」も感じる場面もあったという。

 公開情報をもとに現在をどう読むべきか。以下、梶原氏の寄稿である。

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台湾外交部の冷静な分析

〈高市答弁から直接、「日本が台湾を防衛する」と解釈するのは難しい〉

 いわゆる「台湾有事と存立危機事態」に関する国会での高市総理の答弁について、台湾外交部は11月24日、このような分析を議会に報告した。

 11月7日の高市答弁以来、日中間のみならず日本国内でも答弁の是非を巡る議論が沸騰している。その中で、最も冷静に答弁内容を分析し、端的に結論を指摘したのがこの台湾外交部の分析だったといえる。

 報道によれば、台湾外交部は〈いわゆる「台湾有事」に関して日本政府は戦略的に曖昧な立場を維持していると指摘した上で、日本政府の意思決定はアメリカの動向や日本の世論など、多くの要因の影響を受けると分析〉しているという。その通り、というほかない。

 日本政府は台湾外交部に冷静な分析を報告した件でお礼を言わなければならないのではないか。というのも本来であれば、答弁内容や存立危機事態の位置付けについて改めて説明する必要があったのは日本政府だからだ。

 中国はあえて「日本が台湾を口実に、再び中国に武力を行使すると宣言した」かのように触れ回っている。だが、高市答弁は存立危機事態について述べており、これはあくまでも集団的自衛権に関するものだ。台湾有事の際、アメリカが介入して初めて、日米関係において発動されるか否かが議論されるもので、日本と台湾の関係で始まるものではないのだ。

 台湾外交部はそのことが分かっているからこそ、「日本が台湾を防衛すると解釈するのは難しい」と分析しているのである。台湾の人々が「日本は(アメリカの介入があってもなくても)台湾を助けに来てくれる」との期待を膨らませることのないよう、現実を突き付けたともいえる。

 だが「あえて」誤解しているとみられる中国はともかく、日本国内にも存立危機事態とは何かを踏まえないまま論じている向きが散見される。高市批判の度合いを強める人たちはもちろん、発言に問題なしとする人たちの中にも、これが日米関係ではなく、日台関係の話であると誤解している向きが散見されるのだ。だが日本政府は「従来の説明通り」とするのみで、国内向けに誤解を解こうという姿勢が見られない。

 台湾外交部の分析通り、日本が台湾を直接防衛することは現在の日本にはできない。しかも、台湾有事の際にアクションを始めるのはあくまでも中国であり、米台はもちろん、日本もリアクションをどう取るかという問題でしかない。中国は台湾の武力による統一という選択肢を、この騒動の中でも捨ててはいない。にもかかわらず、中国の言い分に乗ってあたかも日本が中国に対する何らかの軍事的アクションを先んじて行うかのような想定で、それを批判する姿勢も見られるが、これは明らかに主客を転じさせたものと言わざるを得ない。

 高市答弁が分かりづらいのは確かだが、あくまでも中国による台湾への武力侵攻が発生し、米軍の来援があったという仮定の下に存立危機事態になり得るケースの一例を紹介したに過ぎないのだ。

「米軍の来援」を前提とした話しぶりはアメリカの曖昧戦略に対する中国の受け止め方に変化を及ぼす可能性があるため、この点は外交上も問題視されてしかるべきだが、高市答弁が法的に間違っているわけではない。また、「先行して勇ましいことを言ってもアメリカにはしごを外されるだけ」との批判もあるが、上記の通りアメリカが来援することが存立危機事態認定からの集団的自衛権行使の前提になるので、アメリカが来援しなければ存立危機事態にもならないのだ。

 だが、高市発言を機に「中台問題における日本の外交的曖昧戦略」をぶち壊し、「中国の内政問題に口を出すな」と言わんばかりの日本の有識者も散見される。また、戦争に巻き込まれるのを忌避するあまり、台湾の人々を見捨てても構わないと言わんばかりの非人道的文言も飛び交っている。

 台湾には現在約2万人の邦人が在住しており、邦人旅行者も多い。そんな中で台湾有事が発生した場合、少なくとも邦人保護は行わなければならず、この時点で自衛隊は危険を冒して台湾有事に関わらなければならないのである。そうした現実が、「台湾有事に一切関わるな」派には見えているのだろうか。

 こうした前提をまずは共有した上で、高市答弁自体の是非が問われるべきであろう。

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