誕生から100年で「高市首相」も投資を明言 「常識を捨てないと理解できない」量子コンピューターは世界を変えるのか【今、学んでおきたい量子力学入門】
量子コンピューターは社会と生活に何をもたらすか
量子コンピューターのもっとも大きな特徴は、従来型のコンピューターが0と1の並び(ビット)を基本単位として計算を行うのに対し、0と1が確率的に重ね合わせ状態となったまま(量子ビット)計算を行うことである。山本さんによれば「ひとつの正解だけを目指して計算を行うのではなく、いわば無数のパラレルワールドに存在する量子ビットを同時に操作し、そのなかから『正解に近い0と1の並び』を抽出することで効率よく(少ない計算で)正解を導き出すのが量子コンピューターによる計算の考え方」だそうだ。
こう聞くと、いずれ超高性能な量子コンピューターが実現し、従来型のコンピューターは時代遅れになる――そんな未来を想像してしまうが、
「そうはならない、量子コンピューターは決して万能ではない」
と山本さん。
「膨大な選択肢や組み合わせから最適な解を選び出すための計算では量子コンピューターは驚異的なスピードを発揮する可能性があるが、日常的な処理や保存・記録、安定した動作などは従来型のコンピューターに分がある」という。
では、実のところ量子コンピューターは何をもたらすのか、10年後はどうなるのか。
「金融取引や産業用ロボットの動作、運送経路の最適化、創薬のための分子設計や高品質な半導体の開発などのほか、身近なところでは発電効率の向上やリサイクルの促進、食品ロスの低減など、社会・生活におけるムダを限りなく小さくし、豊かさを守るためにさまざまな場面で量子技術が活用される――。遠い未来ではなく、10年後には徐々にそうなると思います」
現時点ではまだ技術革新が必要で「同時に扱える量子ビットの数を数万個以上に増やし、計算の過程で生じるエラーを正す技術も確立する必要がある」とのことだが、実は、量子技術を利用した「組合せ最適化専用計算機」はすでに存在する。たとえば、東芝が提供している量子インスパイアード最適化ソリューション「SQBM+」。このサービスは同社による量子コンピューターの研究過程で発明された「シミュレーテッド分岐アルゴリズム」を従来型のコンピューターに実装したもの。同社広報によれば、組み合せ最適化問題を高速に処理することを得意とし、株式市場における高速・高頻度取引や創薬などの現場における検証に活用されているという。今、国内外でこのような量子技術の研究開発とソリューションの実装が進んでいるのだ。
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