誕生から100年で「高市首相」も投資を明言 「常識を捨てないと理解できない」量子コンピューターは世界を変えるのか【今、学んでおきたい量子力学入門】

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アインシュタインも「不気味」に感じた「量子もつれ」

 もうひとつ、不思議な現象としてよく取り上げられるのが「量子もつれ」である。私たちの日常的な感覚では、東京で起こったことが瞬時にニューヨークで行われていることに影響を及ぼすなどということはあり得ないが、量子力学においてはこの常識が通用しない。

「遠くはなれていても、つねに表と裏の向きが互いに反対になる、という特殊な性質を持つ2枚のコインを想像してください」

 と山本さん。

「このコインのペアを遠く引きはなし、コインAだけを観測してみると、コインAが表だった場合、それが確定した瞬間にもう一方のコインBの状態が自動的に裏にきまります。高いエネルギーを持つ光子を特殊な結晶に通してふたつに分裂させると、ふたつの光子はまさにこのコインペアのような性質を得るのです」

 これこそ、かつてアインシュタインが「不気味な遠隔作用」と呼んだ「量子もつれ」である。量子もつれ状態となった光子のペアは、どんなに遠く引きはなしても瞬間的に影響し合う。たとえば人工衛星から地球と火星に量子もつれ状態の光子AとBをそれぞれ飛ばした後、地球で光子Aの偏光の向きを観測すると、その偏光の向きが確定した瞬間に火星の光子Bの向きもきまるという。これは「状態の共存」と同様、常識で考えると受け入れがたい現象だ。実際、そもそも「量子もつれ」は量子力学の矛盾点を突くために考案されたものだったという。だが、物理学者のジョン・クラウザーやアラン・アスペ、アントン・ツァイリンガーらが実験を繰り返した結果、量子もつれの実在がついに証明され、3氏には2022年、ノーベル物理学賞が贈られている。

 山本さんは言う。

「なぜそうなるかがわからなくても、人間にとって極めて非常識であっても、実証で得られた原理を論理的に受け入れ、使いこなすことで科学は前に進んできました。多くの人が『スマホ』の中身を完全に理解していなくても、それぞれの目的に応じてアプリを使いこなしているのと同じです」

 事実、多くの物理学者たちが量子力学の理論によって金属や絶縁体、半導体といったさまざまな固体の性質を明らかにし、それがLEDやスマートフォンなどの発明につながり、結果として現代社会を成り立たせている。そして今、社会にさらなる変革をもたらすといわれているのが量子コンピューターだ。

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